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ただ書く人
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ストーカーと呼びますか

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 あなたの家、マンションの入口にわたしはずっと立っていました。オートロックのガラス扉から入ってすぐのところに管理者がいることは知っていましたから、時折そのガラス扉の奥を覗くようにして管理者の方に目を向けました。わたしの予想通り、そしてわたしの予想より早く、一時間も経たないうちに管理者はわたしのところにやってきました。そしてわたしに言いました。先ほどから何をしているのか。誰かを待っているのか。カードキーを失くしたのか。わたしは頭の中で行なっていた予行演習の通り、あなたの妹と名乗り、あなたの部屋番号を伝え、兄の仕事が思ったより遅れているようだ、と答えました。それから、もう一度電話をしてみる、と言ってあなたに電話をかけました。もちろん、あなたがわたしからの電話を受けないことはわかっていました。そしてわたしは、あなたの名前が登録されている携帯電話の画面を管理者に見せながら、先ほどから電話が繋がらない、と言いました。もう少しここで待たせて欲しいとも言いました。
 わたしを気の毒だと思ったのでしょう、妹だとわかるものがあれば入れることができる、と管理者は言いました。わたしは、こんなものしかないけれど、とあなたの名字で作った偽の名刺を差し出しました。こんな名刺を作った自分を気持ち悪いと思っていましたし、使うことがあるとは思っていませんでしたけれど、意外と役に立つものですね。管理者はあっさりとあなたの部屋を開けてくれました。こんなことだから、犯罪がなくならないのでしょう。自分のしたことですが、本当に驚いてしまいました。

 きれいに片付いた部屋ですね。とてもあなたらしいです。
 クローゼットを開けてしまいました。見たことのある服もありましたし、見たことのない服もあなたが着た姿を簡単に想像できました。スーツも入っていました。仕事にも私服で行くあなたのスーツ姿は、一度しか見たことがありませんが、とても素敵でした。
 テレビやパソコンには触っていません。機械にはあまり強くないので、テレビの予約や大事なデータを消してしまっては大変ですから。パソコンはプライベートな情報も多いでしょうから興味はありましたが、それをやってしまっては本当にストーカーになってしまいますよね。
 冷蔵庫の中にはあまり食材が入っていませんでした。ビールが数本入っていたのはあなたらしいですね。調味料や調理器具は十分に揃っていましたから、休日には料理をする、と話していたあなたの言葉は本当なのでしょう。あなたはオムライスを上手に作ってくれる女の子と結婚したい、と話していましたね。だからわたしは研究して練習しました。以前から料理は大好きですし、いつかあなたに食べてもらえる日がくるかもしれない、と思って、その顔を想像しながらオムライスを作るのはとても楽しかったです。
 もちろん今日はオムライスを作ります。あなたが帰ってくるまでに準備ができるかな。それともあなたは帰ったらまずお風呂に入るでしょうか。それならわたしは待っていますから、ゆっくりお風呂に入ってください。その前に「おかえりなさい」と言った方がいいですよね。わたしの話はいつにすればいいでしょうか。あなたが帰ってきたらすぐに話した方がいいですよね。約束もしていないのに家にわたしがいたら、びっくりしてしまうでしょう。あなたが嫌でしたら、すぐに家を出ていきますから安心してください。そうしたら作ったオムライスは食べてくれるでしょうか。このオムライスが最初で最後のオムライスになってしまいますね。
 でも、きっと大丈夫だと思っています。優しいあなたは、わたしの話を最後まで聞いてくれることでしょう。あなたの考えていることを全部教えてくれることでしょう。一応かわいいピンクの下着を選んできましたが、すぐに恋人にはなれないかもしれませんね。でも、きっと以前のような関係には戻れます。まずはふたりでオムライスを食べましょう。ふたりでお酒を飲みましょう。
 わたしの声が届く場所にあなたがいるならそれでいいの。あなたの声を聞ける場所にわたしがいるならそれでいいの。それはとてもうれしいことでしょう。でもまだ先のこと。わかっています。今はただあなたに会いたい。あなたに大好きだと伝えたい。