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火を吹く怪物の夢-MONSTER-

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【SCENE 7/7】
××××××●


「――――――ああ、ちゃんと聞こえてるよ、山田。」
 目の前には地獄があった。台風のように暴れ狂う巨大怪獣がいて、悪夢のような勢いで街の一角を破壊し尽くしていく。
 その剛力、死に体《てい》だっていうのに、いや死に体だからこそより苛烈になる火炎のようだった。
 空間を駆け回る先生とアユミ、ふっと気を抜けば押しつぶされてしまうような猛威の中をしかし2人は無傷で抜ける。一太刀入れては離脱し、それを安全に繰り返していく。侘しくなるくらいに勝敗の見えた狩りだった。
 次第に、四肢の機能を削がれて動きが悪くなっていく。
 それでも怪物は耳をつんざく重々しい声を上げる。それが咆哮ではなく悲鳴だったのだと俺は知っている。
「怪物の声は悲しい声………………だよな?」
 タイミングを合わせて先生とアユミがこっち側へ移動してくる。終わりの時が来たのだ。誘い込まれ、愚直にも怪物は俺の方へとまっすぐやって来る。
 ――――ただただ、生き残りたいがために。
「いまだッ!」
「お願い、羽村くん――!」
 俺は短刀を構えていた。構えは横一文字、峰に手のひらを押し当て、意識を集中する。
 怪物の心臓部で、先生の日本刀『小笹』に縫い付けられ実体を取り戻した少女がいる。呪いに憑かれ、既に正気を逸してしまった少女の成れの果てが。
 耳に木霊する。
 もし“その時”がきたら――――
「…………ああ、分かってるよ……」
 ――――決して迷わないでね。地球防衛軍さん。
「ッ!」
 声もなく、俺は短刀を投擲した。美しい放物線を描いて、ひとつの命を終わらせるために吸い込まれていく。
 …………断末魔は長く、重く。
 その悲しい声はいつまでもいつまでも俺の耳に木霊し続けた。
「……………………なぁ、山田……」
 取り残されたちっぽけな少女の遺体に俺は、ひどく痛ましいものを感じていた。
 そのそばに腰を下ろして項垂れる。山田は動かない。命なんてぜんぶ、すべて悲しい声にして吐き出してしまったに決まってる。そんなにも、怪獣の悲鳴は重いものだったのだ。
 はぁああ、と長い溜息を零さずにはいられない。人が死ぬってのだけは慣れない。俺が人であるかぎり、きっと慣れることなんて一生無い。
 目の前の死を受け入れられない愚かな俺は、いまにも目を覚ましてくれそうな静かな寝顔に投げるのだ。
「…………映画でも、観に行きたいよなぁ……FINALじゃなくてさ、」
 元祖、観ようぜ。
 また語って聞かせてくれよ。俺に宇宙語は分からないけど、きっと好きだって熱意だけは伝わるはずだからさ――。
「…………………」
 長い長い沈黙の中――どこからか、あの痛ましい怪獣の悲鳴が聞こえ続けていた気がした。



                               /MONSTER






作品名:火を吹く怪物の夢-MONSTER- 作家名:廃道