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ナマステ!~インド放浪記

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搭乗する飛行機は、白塗りに赤い字で、「Air India」と書いてありました。あ
まり、飾りっ気のないペイントです。大きさはそんなに小さくなく、真ん中に4
席あるタイプのジャンボでした。タラップから、機内に入ると目が痛くなるよう
な赤い絨毯と座席はちょっと明るいトロピカル風迷彩柄といった感じ、異国情緒
満載です。

入り口から入った途端、プーンとカレーに匂い。機内のスピーカーからは、イン
ドの民謡?のような音楽が流れ、もうそこは「ナマステ」の世界でありました。
期待に胸を弾ませて、私は通路を足取り軽く前に進みました。スキップしたい気
分です。

向こうからインドの民族衣装であるサリーを身に着けた太ったおばさんがやって
来ました。このおばさん、すれ違うとき、体が大きくてかなり苦労しました。や
っとすれ違ったと思った途端、また前方に同じサリーを来た、またもや太ったお
ばさんがやって来ます。

(・・・・デジャヴかな?)

いやいや、よーく見ると名札を付けています。そうです、スチュワーデス(CA)
だったのです。

(・・・・もう少しシェイプアップしてから搭乗して欲しい・・・・。)

アメリカで国内線に搭乗したときも、かなり太ったおばさまがスチュワーデスだ
った事があります。日本のスチュワーデスは皆、スレンダーで綺麗な方が多いの
ですが、他の国、特に国内線と来たら、給食のおばさんの様な方々が多くいらっ
しゃる。おっと・・・給食のおばさんが読んでいたら失礼! 私個人のイメージ
ですのでお許しを。決してあなたの事ではございません。あなただけは違います。

若い女性は皆、スレンダーでとても綺麗な人が多いですが、なぜ、中年を過ぎる
とあんなにまでも巨大化してしまうのでしょうか?食べ物のせいなんでしょうね。
基礎代謝が高い若い頃は、高カロリーなものを食べても太りませんが、年を取る
と代謝が落ちるため、同じ量を食べ続けると爆発的に太ります。私はこれを、
「ポップコーン現象」と呼んでいます。日本の女性にはあまり見かけませんね。
みんなお綺麗な人ばかりでございます。(スリスリゴマスリ・・)

客層は、インド人かタイ人かは分かりませんが、そっち系の方々ばかりで、日本
人(と思われる)乗客はゴリさんと私だけの様でした。やっとの事で席に着き、
シートベルトを装着しました。席は、真ん中の4席ある列の通路側がゴリさん、
その次が私です。私の隣に、インド人(たぶん)の小学生低学年位男の子とその
隣がお母さん(たぶん)でした。

これから約2時間30分、カルカッタまでのフライトが始まります。離陸して、
シートベルトランプが消え、給食のおば・・・いや、スチュワーデスさん達によ
る機内食の準備が慌しく始められました。

私は、ゴリさんの言いつけを聞かず、空港のラウンジで衝動食いをしてしまいま
したが、機内のカレー臭(加齢臭ではございません。)を嗅ぐにつけ、私の満腹
中枢は完全に麻痺してしまったのでした。私とゴリさんは、前の席に取り付けて
ある、テーブルを下ろして、食事の順番を待っておりました。食事の時、席の背
もたれは通常の位置に戻さなければいけませんが、ゴリさんの前の席の人は席を
倒したままにしているため、体の大きいゴリさんは顔の前に背もたれの頭が来る
ような窮屈な状態となっておりました。

「チッ」

と舌打ちしたゴリさんは、膝頭を前の席のちょうど腰があたる部分に、ギューッ
と押し付けて行きました。すると、驚いた事に、前の席の人は背もたれを通常の
位置に戻したではありませんか。まるで、そこにスイッチがあるかの様に・・・。

「どうやったんですか?」
私が聞くと、

「飛行機の座席ってのはなぁ、重量を軽くするために、背もたれの下のちょうど
腰があたる部分は布切れ2枚で仕切られているだけなんだ。だから、ここにひざ
をグッと押し付けると、前の人はとても窮屈になる。特に背もたれを倒してる場
合はね。それで自然と席を起こすんだ。覚えとけ。」
と、おっしゃるのでした。

外国語が全くダメでも、世界中を渡り歩いてきたゴリさんの処世術です。すばら
しい!!

私達の横に食事を乗せたカートがやってきました。スチュワーデスが私に聞きま
した。

「ベジ?ノンベジ?」

(ん? おれはのん兵衛か? そう聞きたいの?)
意味が分かりません。英語?

「Excuse me?」
聞き返すと、また同じフレーズが・・

「ベジ?ノンベジ?」

言っている意味が分からない時、不用意に肯定的な発言してはいけません。これ
は海外で仕事をする場合の基本です。

(ノンというのはたぶん、否定を表すのだから、そっちを言っとけば無難か)
と、思い、

「ノンベジ」といいました。
スチュワーデスは、私に銀色のアルミホイルの掛かった食事を渡しました。

次はゴリさんの番です。ゴリさんはすかさず、

「ベジ」といい、
金色のアルミホイルの掛かった食事を受取りました。

「ゴリさん、これってどういう意味なんですか?」
と聞くと、

「お前、英語分かるんだろ? ベジはベジタリアン、ノンベジはノンベジタリア
ンという事だ。だから、ベジには野菜のカレー、ノンベジにはチキンカレーが配
られる。この飛行機のチキンカレーは辛い。覚えとけ。」

(ヒー、略すなよ!! 女子高生か!)

気を取り直し、銀色のアルミホイルをピリピリと慎重に剥がします。うーん。え
もいわれぬいい香り、食欲をそそります。長ひょろいタイ米に掛かった、こげ茶
色のカレーのスパイシーが香りが異国情緒をさらに増幅し、私の満腹中枢は完全
に何処かへ行ってしまいました。

スプーンでバランス良く掬い取り、口に入れました。口の中に広がるスパイスの
香りと、甘い味。これは美味です!!

(ぜんぜん辛くない。しかも抜群に旨い!)
うなずきながら、ゴリさんを見ると、彼は真剣な顔で私の顔を覗き込んでいます。

(???)
・・・3秒後。

「ドッカーーーン!」
口の中で、何かが爆発しました。

「か、辛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」
顔中から汗がブワっと吹き出しました。

その様子を見るや、満足そうに微笑んだゴリさんは、自分の食事に取り掛かるの
でした。

(あんたは鬼か!)

隣の席から、「シー、シー」という音が聞こえます。ふと見ると、インド人の小
学生が私と同じ様に汗を流し、口に指を入れて、辛そうにノンベジカレーを食べ
ていました。隣のお母さんはどこ吹く風です。

(あっ! インド人でも小さいときはやっぱり辛いんだ! 食べて行くうちに慣
らされていくのね。)

そうやって君は大きくなるのね、おじさんも頑張って食べます。

旨いけど辛いこのカレーと格闘し、これで私も一人前と隣の小学生に親指を立て、
「Good!」と笑って見せた私ですが、このカレーは旅行者向けの本当に辛さを押
さえたカレーであるという事実をこの時は知りませんでした。

もうすぐカルカッタ到着です。どんな冒険が待ち受けているのでしょうか。