ナマステ!~インド放浪記
「ゴリさん、おはようございます。」
「おう、おはよう。」
ホテルのフロントで、朝の挨拶を交わし、チェックアウト。
これから、成田空港行きのシャトルバスに乗って、出発です。
「おい、パスポートは何処にしまってる?」
ゴリさんは聞きました。
「トランクケースの中に入れてますけど。」
私が言うと、
「あのなぁ、成田は空港に入る前にゲートがあって、バスの中でパスポートの提
示をしなきゃならんのよ。すぐ出せるところに入れておかないとみんなに迷惑か
かるよ。」
(あー、そうなんだ。)
その当時、そんなことも知らずにいた私でした。あわてて、トランクケースを開
け、ごそごそとパスポートを取り出しました。
「まず、空港についたら、必要なものを調達するからな。」
「必要なものって?」
「まぁ、言ってから話すわ。」
ゴリさんは、トランクケースを閉めるのに悪戦苦闘している私を尻目に、さっさ
とバスに乗り込むのでした。しかし、ゴリさんの荷物は異常に少ない。2週間程
の滞在予定ですが、ゴリさんは、パソコンを入れるキャリングケース1つと、肩
にかけるタイプのキャリアバッグ1個だけです。私はといえば、キャリアバッグ
1個と、ゴロゴロと転がす大きな旅行用トランクケースを持っていました。そこ
が、旅慣れた人と、そうでない人との大きな違いです。
今でこそ、1ヶ月位の滞在でも、小さなキャリアバッグ1つで何処へでも行きま
すが、初めての海外出張だった私はまるで、家族連れでバカンスにでも行くよう
な荷物の量でした。今考えれば、「何を入れて行ったんだろう。」と不思議に思
います。着替えその他、必要なものだけで、余計なものは入れていないはずなの
に、今となっては覚えていません。
無事に、ゲートにてパスポート検査を受け、成田空港に到着しました。ゴリさん
は、スタスタと、空港にある薬屋に入っていきました。
(何を買うんだろう。)
と思っていると見ていると、「おしりナップ詰め替え用」とかかれた、赤ちゃん
のおしり拭き用ウエットティッシュのパックを大量に購入しておりました。
「おい、これ、持って置きなさい。」
と私にも10パック程くれました。
「こんなもの、何に使うんです?」
私が聞くと、
(こいつ、何も分ってねーな。)という顔で苦笑しながら、
「大体、初めてインドに行くやつは、すげー下痢をしてのた打ち回るのよ。俺の
経験から言うと、水は不衛生だから、いくらその水で手を洗ってもダメなんだ。
それから、テーブルや椅子もきわめて不衛生だから、このおしりナップでふき取
るのが一番いいんだよ。」
「でも、なんでおしりナップ詰め替え用なんですか?」
「まず、第1に、アルコールが入っていて殺菌力が違う、第2に価格が安い、第
3にかさばらない。」
(おー、なるほどです。さすが、百戦錬磨は違う。)
「それと、お前、プラグアダプターもってるのか?」
「プラグ・・・なんですかそれは?」
「あのねぇ、パソコン繋ぐコンセントの形、日本と違うのよ。それでアダプター
がないと、そのパソコンつかえないよ。」
(あー、そうなんだ。)
今なら、海外旅行する人なら常識となっている事ですが、当時は、ノートパソコ
ンを持って行く事すら一般的では無かったのです。ゴリさんは、空港内にある、
行きつけの電気屋さんに連れて行ってくれました。そこで、数カ国対応のマルチ
アダプターを購入し、準備万端となりました。そのアダプターは今でも使用して
おり、どこの国でも使用出来、大変重宝しております。
ANAのカウンターでチェックインを済ませ、バンコク空港までのチケットをゲット。
ゴロゴロと重たい私のトランクケースを預け、やっと身軽になったのでした。
今回はインド、カルカッタ空港までのフライトのはずなのに、チケットはバンコ
ク空港になっています。なぜなのか、ゴリさんに聞くと、
「今回はなぁ、1人分の予算で行かなきゃならんから、安い飛行機にバンコクで
乗り換えるのよ。」
「安い飛行機って?」
「エアーインディアというインドの会社の飛行機だ。安いから、ちゃんと着くか
保証はせんよ。」
と冗談とも本気ともつかない顔でおっしゃるのでした。
バンコクへは、朝の10時頃発の便に搭乗し、延々と約7時間のフライトです。
自分の席の番号へ行くと、何故か後の方の席と比べると広い席になっていました。
明らかにここはビジネスクラスです。
(なぜ?)
けちな会社ですので、ビジネスクラスの席など、予約してもらえるはずがありま
せん。ましてや、飛行機代を節約するために、バンコクで乗り換えるのですから・・・
隣にいたゴリさんは、私の方を見て、ニコっと笑い、こう囁きました。
「裏技が効いた様だな。」
裏技?
そういえば、チェックインの時、ゴリさんは、
「見ての通り、私のガタイがこうなので、出来れば、前の広い席をお願いしたい。」
と言っていましたが、これが裏技だったのか。席について、しばらくしてから、
ゴリさんは得意げに、
「いつも使っている便だし、前の広い席をと言うと、運がよければ、エコノミー
料金で、ビジネスに座らせてくれるんだよ。その時、ビジネスにしてくれと言っ
ては絶対ダメで、前の広い席をと言うんだよ、それがミソだ。これは内緒だよ。」
と囁いたのでした。
なるほど・・・・
この手は、今でも使っています。結構な確立でビジネスに座れます。ビジネスは
無理でも、非常口のところにある、前の広い席に座ることが出来ます。この事は、
あまり広めると効果がなくなるので、これをお読みの方だけの秘密にしておいて
ください。つい最近も、会社の若いのやつが、恋人とシンガポールにツアーで行
くというので、チケットは自分でチェックインする事にして、Webチェックインせ
ず、直接カウンターへ行って、
「連れが閉所恐怖症気味なので、出来れば、前の広い席をお願いします。」
と言ってごらんと教えてあげたら、行きも帰りもビジネスで行けたととても喜ん
で報告してくれました。私はツアーチケットでやったことは無かったのですが、
それでも何とかなるみたいです。
約7時間のフライトをビジネスクラスで快適に過ごした我々は、バンコク空港に
降り立ちました。当時、バンコク空港は新装されたばかりで、免税店が軒を連ね
る大きなショッピング通りが私の興味をそそりました。時間はたっぷりあります、
次の便まで4時間も。
まず、エアーインディアのチェックインカウンターを探して、チェックインを完
了。再び、重たい荷物を預けて身軽になりました。今回キャンペーンか何かで特
別にラウンジを使っても良いという事だったので、早速ラウンジへ行きました。
ラウンジには、ビール、ウィスキー等のアルコール各種を含めた飲み物と、ケー
キ、ビスケット、その他スナック、サンドウィッチなどの軽食が全て食べ放題で
した。初めてラウンジなるところに入った私は、もう夢中で色々と手あたり次第
に食べあさろうとしましたが、ゴリさんが、
「おいおい、程々にして置けよ。飛行機に乗ってからまた機内食があるんだから。」
作品名:ナマステ!~インド放浪記 作家名:ohmysky