ナマステ!~インド放浪記
やっとホテルに到着しました。いやぁ、長かったです。北海道→東京→バンコク
→カルカッタ。家を出てから約60時間。まだ、お客さんのいるジャムシェドプ
ルには到達していません。やっとインドに入国したばかりです。サーバントのお
っちゃんにチップを渡し、門番に荷物を渡してチェックインカウンターへの向か
いました。
ホテルは観光用のホテルで、ロビーは結構豪華です。ホテルの名前はすっかり忘
れてしまい、思い出すことが出来ません。ホテルのカウンターの人に商社のベン
ガルさんの部屋に電話を繋いでもらいました。
「もしもし、ベンガルさんですか? はじめまして、XXXXの大舞です。ただ今到
着しました。」
「あー、お疲れ様でした。これから降りて行きますので、軽く食事でも行きまし
ょう。」
そう言って、ベンガルさんとの会話を終了し、とりあえず荷物を部屋に入れにい
きました。ボーイが荷物を持って付いてきます。いつも手ぶらで楽チンですが、
その都度10ルピー掛かります。でも、所詮25円なのでこの際気にしません。
部屋はダブルサイズのベッドが付いて、2人掛けのソファーと、1人掛けのソフ
ァーにテーブル、まあまあの広さがあります。
ロビーへ降りて、ゴリさんと一緒にベンガルさんが降りてくるのを待っていまし
た。「ピーン」エレベーターが到着を告げる音。「ガタン」エレベータのドアが
開く音。
(なんじゃそりゃあ!)
「あんぐり」私とゴリさんが呆れて口を開ける音。
エレベータから白いバスローブを身にまとった男性が降りてきました。素足に革
靴を履いています。まるで変なおじさんです。
(い、いいのか?)
その人は、私達を見ると、ニッコリと笑いながら寄ってきました。
(うわぁ、関わりたくねぇ。 ベンガルさん早く来て〜)
「すいません、遅くなっちゃって。 N商事のベンガルです。」
そう言って、彼はバスローブについている小さなポケットから名刺入れを取り出
し、名刺をくれました。
「いやぁ、こんな格好で失礼します。実は、飛行機降りたら私の荷物が出てこな
くて、調べてもらったら間違ってエジプトに飛んでいってしまったみたいなんで
す。着替えも何もなくって、着て来たスーツは明日の為にしまってまして、下着
は今、手で洗ったんですが、乾かなくて・・・フリチンです。」
そう言って、特に悪びれる様子もなく、恥ずかしがる様子もなく、
「さ、ホテルのレストランバーへ行きましょう」
と言うなり、スタスタと歩いて行くのでした。
(恐ろしくタフな人だなぁ。)
私の率直な感想でした。
年は29歳で、当時の私とそう変わらない年齢ですが、数々の修羅場を潜ったん
だろうなぁと、彼の振る舞いから想像できました。レストランバーでは、スーツ
姿の欧米人が話しを弾ませておりましたが、こちらを見たあと、一度会話を続け
ようとして、またこちらを見なおしました、いわゆる二度見というやつを生で拝
見してしまいました。テレビドラマでしか見たことのない反応ですが、本当にす
るんですね。
ベンガルさんはそんな事はお構いなしです。ホテルのボーイが困った顔をしてい
ましたが、「俺の荷物は今、エジプトに居る。だから服がないんだ」と説明して、
無理やり奥の席を陣取ったのでした。
まずはビールで乾杯です。ベンガルさんは、「キングフィッシャー」というビー
ルを注文しました。それと、つまみに「パパド」という薄焼きせんべいの様な物
を頼みました。ベンガルさん曰く、
「ここでは、ビールはキングフィッシャーの他にゴールドラベルというのがある
んですが、そのゴールドラベルというビールは、すっぱくて、どう考えても腐っ
ているとしか思えない味がするんですよねぇ。だから、キングフィッシャー以外
は飲まない方がいいですよ。」
ということなので、今後は、これ1本で行くことになりました。ビールをグラス
についで、「お疲れ様でした。カンパーイ」。
「ゴクゴクゴク、ぷっはーっ」。このビールのおいしい事ったら。どれどれ、つ
まみの「パパド」とやらを食してみましょうか。
「パリパリパリ」
むむ、むむむ! ブラックペッパーをかじっているようなスパイシーな香りが口
の中に広がります。うまーい! けど、辛ーい! けど、うまーい!
辛さをビールで流し込み、また「パリパリ」「ゴクゴク」「パリパリ」「ゴクゴク」。
あっという間に酔いが回ります。ベンガルさん、ゴリさん、そして私。みんない
い感じで酔いが回ってきました。どんな話をしたのかは既に忘却の彼方ですが、
何かの話で盛り上がり、みんなで笑っていました。
足を組んだベンガルさんの太ももと太ももの間から、何かはみ出しているのが目
に入りました。「たらこ」のようなそれは、フリチンのベンガルさんの”お楽し
み袋”だったのです。酔った私は、「ベンガルさん、たらこ出てますよ。」と言
ってあげました。
すると、酔ったベンガルさんは、「いやぁ、これは失礼」と、椅子に座りなおそ
うとして・・・・ひっくり返りました。バスローブの裾がまくれ上がり、全部丸
出しで仰向けに転がったベンガルさんを見て、ちびりそうになるほど笑ってしま
いました。こんな豪快な人は、後にも先にもベンガルさん唯一人です。
次の日の朝、6時に目を覚まし、朝食のルームサービスを頼みました。朝食はオ
ムレツとトースト、それにコーヒーがテーブルの上に運ばれます。給仕さんが付
いていて、コーヒーをついでくれます。食事をじーっと見ていて、食事が終わる
とお皿をさっと片付けてくれます。
ありがたいのですが、落ち着きません。チップをあげると喜んでいなくなりまし
た。これで、朝食が50ルピーですから、125円位でしょうか。とても安く感
じましたが、これでも高い方です。
昨日飲みすぎて、ちょっと重い頭を抱えながら、フロントへ行き、チェックアウ
トを済ませました。同じように、ゴリさんが「具合わりぃ〜」と言いながらやっ
てきました。昨日とは打って変わってスーツをビシっと決めた、ベンガルさんが
やってきました。こうして見ると、身長も高いし、すらっとしてなかなかいい男
です。あんな、”おっぴろげ回転攻撃”をする人にはとても見えません。
さあ、これからタクシーで、インド国鉄のカルカッタ駅に向かい、そこからお客
さんの待つジャムシェドプルまで3時間半の旅の始まりです。
作品名:ナマステ!~インド放浪記 作家名:ohmysky