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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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からくり仁兵衛さん

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仁兵衛さんは腕のいい大工です。とっても気がいいので、貧乏長屋の人たちには、ただで修理してあげたりします。
「おまえさん。せめて材料費くらいはもらってくれないと。家計は火の車なんだよ」
と言うおかみさんが、内職でやっている針仕事でなんとか生活をしていました。
「おーい。白湯くれぇ」
 仁兵衛さんが言いました。でも、おかみさんはしらんふり。針仕事に夢中です。
「ちぇ。白湯もいれてくれねえのか」
 仁兵衛さんは舌打ちしました。すると、
「おまえさんが、ちゃんとかせいでくれたら、白湯どころか、上等のお茶を入れますよ」
 破れ障子の向こうからおかみさんが言いました。ひとこと言えば、十も二十も言いかえされるので、仕方なく、自分で白湯を入れました。
 このとき、ふっといいことを思いついたのです。そして、土間に転がっていた木の端っこやら、板っきれをあつめると、こんこんかんかん、なにやら作り始めました。
「とっつぁん。なんだい、これ」
 息子の太郎がききました。
「まあ、見てなって」
 それは子どもの恰好をした人形でした。でもその体には歯車がついていたり、足の裏には丸く削った木の車がついています。
 仁兵衛さんが、ぎりぎりとゼンマイを捲き、人形の手のひらに湯飲みを置くと、かたかたかた……、人形は動き出しました。
「わあ、すごい、すごいね。とっつぁん」
「いいだろう? これから父ちゃんが白湯って言ったら、おまえがこれに白湯を入れた湯飲みをおくんだぞ」
 日の本の国初の、からくり茶はこび人形は、こうして誕生したのです。

 さて、太郎がからくり人形で遊んでいると、大家さんがそれを見て言いました。
「殿様が若様に動くおもちゃを作ってやりたいと言って、職人を捜しておいでらしい」
 おかみさんにうるさく言われて、しぶしぶ名乗り出た仁兵衛さんは、もう一人の職人と腕を競うことになりました。
「できあがるまで、飲んじゃだめだよ」
 仁兵衛さんはお酒も取り上げられて、昼も夜もおもちゃづくりです。
「なあ、太郎。殿様に認められたら、貧乏暮らしとはおさらばできるぞ」
 でも、太郎にはとっつぁんの本当の気持ちがわかっていました。
 真夜中、太郎は、隠してあったお酒をこっそり持ちだし、そっとからくり人形に湯飲みをのせました。かたかた……。人形は仁兵衛さんの前につきました。
 一杯のお酒にこめられた太郎の思いやりに、仁兵衛さんはうれしくなりました。そして、
「ええい。もう、やめだやめだ。こんなくだらねえこと、やってられっか!」
と、なにもかも放り出してしまったのです。
「まあ、おまえさん。なんてもったいないことするんだい」
「うるせえ。おれは太郎の喜ぶものを作ってやりたいんでえ。若様なんぞクソ食らえ」
 そうです。みんなが喜んでくれることのために、自分の技術をつかうのが、仁兵衛さんの生きがいなのです。
 ですから、仁兵衛さんは一流の職人でしたが、からくり儀右衛門のように、世に名を残しませんでした。
 でも、それはそれで幸せだったのです。