五行歌集
連作 記憶
想い出したよ
あなたと出会う前の
わたしのこと
暗く冷たくすさんでいた
ちょうど今のわたしのように
画面の上の黒い文字なのに
あなたの
息づかいが聞こえた
あなたの
涙が見えた
最初の電話なのに
あなたは声にならなかった
ああ
そんなにたくさんの涙を
あなたは溜めていたんだね
上りの新幹線のホームから
わたしは電話をかけた
下りの新幹線のホームで
こぼれる笑顔で手を振る
初めて会うあなたがいた
ねえわたしそのときになったら
怖くて逃げようとするかもしれないよ
だって少し前までほかの男の人に
抱かれることなんて考えてもいなかった
お願いその時はわたしをしっかりつかまえて
ブルちゃん
はじめまして
会いたかったよ
あなたがここで最初にしたことは
わたしのわんこと友達になってくれたこと
断ち切られた日々の
無数の記憶のかけらが
行き場を失って
風に
流れ続けている