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ただ書く人
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高架下の参道

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 高架を地下鉄が過ぎていく音が聞こえた。そしてその後に続く金属音。ああ、これは馬が走っているんだな。蹄鉄がレールを叩く音だ。馬は重力の影響が少ないからうらやましい。彼は小さくなっていく金属音を聞きながら、少年時代に乗せてもらった馬の背を思い出していた。馬上の彼は軽かった。
 金属音が聞こえなくなってから彼は横目に高架を見上げた。すると今度はそこを真っ赤な人工衛星が走り抜けていった。彼には一生縁がないだろう真っ赤な人工衛星は、打ち上げに向けてのトレーニング中なのだろう。彼も一生に一度くらいは真っ赤な人工衛星に乗ってみたいと思っていた。
 その時、彼の左手を突然誰かがぎゅっと掴んだ。急なことに驚いて彼がそちらに顔を向けると、そこにいたのは黒いフリルのついたピンクのワンピースを着ている中学生くらいの少女だった。確か左側には異星人がいたはずだが、重力に耐え切れなかったのだろうか。いつの間にか少女になってしまったようだ。
 少女は彼の手を掴んだまま走りだそうとしたが、体もかばんも重くて、彼は走ることができなかった。すると少女は、彼の前に回りこみ、彼が右手に持っていたかばんを軽々と取り上げて、それを前方の空中に放り投げた。彼は思わずかばんを目で追ってしまった。

しまった。これも罠だ。
視界に入った駅がぐんぐんと遠くなる。
かばんが中空で消える。
年下の男がそこに飛び込む。
少女も続けて飛び込む。
彼はもう月よりも遠くなった駅を見つめて座り込む。
沈み込む。
重力が強い日のお参りはやめた方がいい。
作品名:高架下の参道 作家名:ただ書く人