冷酷な男
「言っただろ。俺はどんな失敗も見逃さない。失敗する奴は嫌いだ。それ以上に口の軽い人間は嫌いだ。お前もどんな戯言を言ったのか、今、この場で麗子に聞いていいんだぞ」と笑った。
秘書は観念した。
「麗子、この男が消えたら悲しいか?」
麗子は笑みを浮かべた。
秘書はその時、初めて気づいた。麗子も西村に負けないくらい冷酷な人間であることを。
「残念だったな。麗子が悲しいと言ったなら、明日の朝日を眺めることができたのに。残念だよ。人生はときにあっけなく幕が下りる。さあ、こっちへこい。幕が下りるまで、しばらく時間がある。今生の別れだ。一杯、恵んでやろう」
「初めて、お前が俺のところにきた時のことを覚えているか? お前に教えたはずだぞ。“人を信じるな”と。残念なことにお前は忘れてしまった。信じても、人は救われないんだよ」