自爆装置を持つ男
手におさまるサイズの自爆装置を、大事そうに握っている。
どんなかたちかってのは、うまく説明できないが
爆発するものだっていうのはわかる。
「きみ」
呼ばれたようだ。
きっと、おれのことだろう。
はじめて気付いたように男に視線を向けた。
「これ、もらってくれないかな?」
男はそれを差し出す。
なぜもらわなきゃならない。
この男は、自分でそれをにぎったんだぜ。
「今、ものすごい勢いで通り過ぎていったヤツなんて、自爆装置に乗っていたんだ。
すごい音がしていたから、きっとすぐに爆発してしまうだろう」
男は思い出したようにつぶやいた。
だからなんなんだ。
「ぼくには必要ありませんから」
「なぜだい?みんな持っているのに」
男は、引き下がるどころか前に出てきた。
近い。すこし引いてくれないか。
「ボクだって持ちたくて持っているんじゃ、ないんだよ?
しかたなかったんだ。誰もとめる人もいなかった」
「そうですか....」
「ねぇ...本当は欲しいんじゃないの?」
しつこい男だ。
遠くで激しい爆発音が轟いた。
「ぼくは、知らないんですよ」
男ははじめて無表情になった。
「ソレの、使い方」
おれたちの間に、なにかがドスンと落ちてきた。
やっと男は、向こう側で興味を失ったようだった。
「そう。そうか、じゃあしょうがない。きみにはまだ早かったのかもね」
こんなに隔たりがありがたいこともなかった。
今日はじめて、おれは笑った。