アメリカ漂流記~極寒の地より
仕事もやっと終わり、この極寒の地からおさらばする日がやってきました。
車に乗って、ルンルン気分でシンシナティ空港へと向かいました。
レンタカーを返却し、JALのカウンターでチェックイン。
その後、セキュリティチェックの長い列に並び、手荷物検査を受けました。
今回は、来たときの様に、検査台に腰掛けるなどのヘマは致しません。
出発ゲート前の待合の席に陣取り、皆で土産屋を見渡しておりました。
ふっとタバコが吸いたくなり、喫煙室が近くにないか目でさがしました。
他の皆が土産屋を興味深気に見渡す中、私だけは喫煙室を探してキョロキョロして
いました。
(そういえば、アパートを出てから一本も吸ってない。)
ミッシェルが大のタバコ嫌いなので、車の中では一本も吸わせてもらえなかったのです。
(しまった、手荷物検査の前に吸って来ればよかった。)
そう思ってもあとの祭りです。
吸えないと思えば吸いたくなるのが、スモーカーの性です。
「俺の荷物見てて、ちょっとタバコ吸ってくるから。」
ミッシェルにそう言って、一応航空券とパスポートと財布だけは持ちました。
行きがけに、ミッシェルが、
「先輩、帰ってきたら、お土産屋さん見たいんで、代わって下さいね。」
と言ったので、振り向きざまアメリカ人の様に両手の平を上に上げて肘をVの字に曲げて、
「ノープロブレム」
と気取って言いました。
これが、プロブレム(問題)の始まりだったのです。
既に缶ビールを飲んでいるのんべえ竹ちんと、アパートで作ってきたおにぎりに夢中の
中道くんを残し、一人、喫煙室探しの旅に出ました。
大抵、喫煙室はターミナルの端っこにある場合が多いので、土産屋をちらちら見ながら、
奥へ奥へと歩いて行きました。
突き当たりまで行きましたが、そこにはなにもありませんでした。
(くそっ、反対側か)
飛行機の搭乗時間まで、まだ1時間とちょっとあります。
反対側までは余裕で行って来れるでしょう。
今度は、反対側の土産屋をちらちら見ながら、奥へ奥へと歩いて行きました。
やがて突き当たりが見えてきましたが、そこにも喫煙室はありません。
こうなると、もう吸いたくて吸いたくて居ても立っても居られなくなります。
(絶対どこかにある筈だ。俺と同じように困っている人がたくさん居る筈だ。)
と、目を皿の様にして、あちこち探し回りました。
ちょっと、奥まった目立たないところにエスカレータがありました。
そのエスカレータは止まっていて、そこまで行く通路の電気も消えていましたが、一応確認ということで、そのエスカレータのところまで行って下りの方向に目を凝らすと、
向こうにガラスのドアがあって、外の明るい光が差し込んでいるのが分かりました。
(おっ、これはタバコすえるかも!!)
とエスカレータに乗ると。
「ウィーン」
エスカレータは動き始めたのです。
エスカレータを降り、薄暗い廊下を光の差すドア目指して歩いていきました。
(このドアが開かなかったら、あきらめよう。)
そう思って、ドアを押すと・・・・・
開きました!!
空港の建物の外に出ることが出来たのです。
ちょうど空港入り口のはずれの角になっているところに出てきていました。
(灰皿、灰皿・・・)
空港入り口の近くに灰皿スタンドが置いてあります。
(やった!)
いそいで、タバコに火を付け、すーっと吸い込みました。
頭がくらくらして、それでもまた、すーっと吸い込み、ニコチンが体の隅々に
行き渡るのを実感しました。
(うめー!)
禁煙中の読者がいらっしゃったらごめんなさい。
さぞおつらい事でしょう。
やっと一息ついて、さあ、戻ろうと入ってきたドアの所に行って、ドアを引きました。
開きません。
中からは開くけど外からは開かない構造になっているようです。
それでも私はあわてませんでした。なぜかって?
そりゃ、ふつうにもう1度入ればいいんですから。
私は、最初に入ったのと同じ入り口から空港に入り、手荷物検査に並びました。
私の番が来ましたが、私は財布と航空券、パスポートしか持っておらず、
とても旅行者には見えなかったのか、
「おまえ、荷物はどうした?」
と聞かれました。
「え? 中ですけど。」
そう答えると、検査官は目を丸くして、無線機で何やら喋っています。
少しすると、警備員が3人やってきて私を取り囲みました。
警備員「お前、どうやって出た。」
私「エスカレータに乗って。」
警備員「どこの?」
私「中の。」
警備員「なんで?」
私「タバコ吸いに。」
・・・・捕まりました!!
3人の警備員に連行され、どうやって外にでたのか実況検分が始まりました。
さきほど降りたエスカレーター。良く見ると、立ち入り禁止の看板が張っていました。
鎖もあったようですが、それは外れていました。
私は決してはずしてません。
それで、エスカレーターが生きているということについて、警備員3人は何やら言い合いのような感じになっているのをボーっと見ていました。
警備員の1人が私の方を向き、急に笑顔になってこう言いました。
「お前は、この空港のセキュリティーのウィークポイントを教えてくれた。
ご協力感謝する。」
そして、握手。
・・・・釈放です!!
急いで、搭乗口に向かいました。もう既に搭乗が始まっている時間です。
ミッシェルが怒ったような顔をして、自分が土産屋を見れなかった事に少しむっとした様子で
「またですか?」と一言。
スカンクの匂いを嗅いで、「腹減ったー」と言った、あなたに言われたくありませんから。
もう、赤い顔の竹ちんと、お腹いっぱいで眠そうな中道くん、呆れ顔のミッシェルと私は
それぞれの思いを胸に、飛行機に乗り込んだのでした。
作品名:アメリカ漂流記~極寒の地より 作家名:ohmysky