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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「仮面の町」 第五話

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第五話

昼休みの時間に優子あてに電話が掛かってきた。母親からだった。

「優子・・・お母さんよ、ゴメンなさい。あなたに勝手に出てゆかないでと言ったのに、今朝同じように私も家出したの・・・お父さんに酷いことを言われ、叩かれたの・・・我慢出来なかった・・・隣町にゆくけど、住むところが決まったら連絡するから心配しないで」
「お母さん!何故?当ても無いのに家出したの?無茶だよ・・・どこに居るの、そこに行くから教えて」
「いいのよ、仕事でしょ?今日はホテルに泊まるから・・・お金は少し蓄えてあったものを持ってきたから大丈夫」
「ダメ!私が心配でじっとしてられないから・・・専務に話して早引けする。どこなの教えて?」
「優子・・・まだ駅なの。境川の」
「直ぐに行くから・・・話したいこともあるし、待っててよ」

優子は弘一の現場に連絡をして事情を話して一旦自分の他に母親も泊めてくれるように頼んだ。弘一は快く引き受けた。

「お母さん!」
「優子!」
初めて優子は大きくなってから母親の手を握った。子供の頃は手をよくつないで買い物に行ったりしていたが、中学生の頃からだんだんと話さなくなり最近は父親の言いなりになっている母を情けないとさえ感じていたことが遠ざけていた理由だ。
今、母はその父から逃げるようにして駅に立っている。自分の思いと重なるような部分を感じて、いとおしくなっていた。

「お母さん、怒らないで聞いてね。私ね・・・好きな人が出来たの。その人のアパートに昨日から居るの。だから落ち着くまでそこに居て。
さっき電話して彼に話しておいたからいいのよ。狭いけど、何とか住めるから」
「優子、おまえそんな人どこで見つけたんだ?前からお付き合いしていたの?」
「ううん、最近なの。その話はまた後で・・・ね。今から一緒に連れてゆくから・・・仕事は早引けしてきたから戻らなくていいの」
「そんなことしなくてもホテルに泊まればいいから・・・あなたもいつまでもそこに居れないでしょう?一緒に住むところ探す?」
「お母さん、私は彼から離れないわ。今やらなければならないことがあるの。乗りかかった舟って言うのかしら・・・大切なことなの。とりあえず彼も紹介したいから、今日は一緒に居て、お願い」
「そうかい・・・じゃあそうするよ」

母の荷物を置いて買い物に二人で出かけた。彼のために晩ご飯を作ってあげたいと思ったからだ。ちょうど母も居るから教えてもらえるし都合がよかった。久しぶりに母と買い物をした優子は、弘一とそして出来るだろう子供と一緒に暮らせたらそれも幸せに感じるだろうとふと思った。すき焼きにしようと鍋も買った。男一人暮らしの弘一ではあったが冷蔵庫とガスコンロは置いてあった。多分時々自炊をしようと、いやしていたのかも知れない。夕方になって用意をして待っていると弘一が帰ってきた。

「ただいま!」
「お帰りなさい」
優子は母を紹介した。
「初めまして・・・天木弘一と言います。優子さんと同じ会社で働いています。花井建設です」
「優子から聞きましたよ。厚かましくお邪魔してゴメンなさいね。恥ずかしいことをあなたに知られてなんだか申し訳ないような気分です」
「いいえ、そんな事ないです。遠慮しないでいいですから気の済むまでここに居てください。優子さんだってその方が安心するでしょうから」
「弘一さんって優しいのね。夫とは違う・・・優子は幸せだわ。よろしくお願いしますね」
「はい、優子さんはボクの・・・大切な人ですから」
「ご馳走様・・・それより優子と一緒に買い物に行ってすき焼き準備しましたよ。よかったらたくさん食べてくださいね」
「本当ですか!優子さん、ありがとう」
「母が作ってくれたようなもの・・・口に合うかしら」
「ボク田舎では月に一度のすき焼きの日がとっても楽しみだった・・・親父の給料日には決まってすき焼きだった。その日だけ牛肉が食べられたから・・・幸せだった」
「弘一さん・・・あなたの家庭は幸せなのね・・・その様子が手に取るように感じられるわ、ねえお母さん?」
「そうね、格式とか身分とかに縛られて自分を見失って行く家庭は悲しいわよね・・・素朴に生きてこそ家族の愛情が見えてくる、そう思ったわ」
「お母さん!僕達はそういう家庭を作りたいと願っています。まだ早いけど・・・結婚して必ず優子さんを幸せにします」
「ありがとう・・・初めてお会いしたのに、そんな事言ってもらえて、なんだか嬉しいわ。さあ食べましょう!」

ぐつぐつと煮えだした鍋から鼻をつく牛肉のいい香りが醤油の香りに混じって食欲を誘っていた。
弘一のどんどん食べる食欲に母親は微笑ましいものを感じていた。自分にもし息子が居たらこんな感じなんだろう・・・って思えたからだ。
600グラムも肉を買ったのに・・・無くなってしまった。
それも優子と母親はそれほど食べていなかったのにだ・・・

「ねえ優子、さっき気になることを言っていたわよね?覚えてる、乗りかかった舟っていう話。教えてくれない?」
「その話しね・・・父に話して喧嘩になった原因の話なのよ。弘一さん、母に話しても構わない?」
「ボクから話すよ。お母さん聞いてください」
弘一は自分が見た事故の話と警察の態度のことを母親に話した。