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最小の抵抗と最大の反撃

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1943:7:8 Prokhorovka


ゲオルグ・バウアー中尉は、
泥のこびり付いたツァイス双眼鏡を手で弄りながら、
前方500m先を行く、特殊車両250/9ハーフトラック小隊の
行く手をしきりに確認していた。
つい昨日、255.2高地を攻略した時に受けた赤軍戦車部隊の猛攻撃によって、
連隊司令部からは以降の反撃は微弱であると伝えられていた。
しかしどうして、
バウアー中尉にはそれが真実であるとは感じられなかったのだ。


バウアー中尉の歩兵中隊は、輸送車両を後方に回してしまったため、
徒歩でイワノフスキー・ヴィセロク村を攻略するという任務を帯びている。
ヴィセロク村は幹線道路の脇に反れた場所にあり、更に道路と村の間に
平行して走る線路の存在が遮蔽物の少なさを物語っていた。
装甲偵察隊が先行し、微弱な敵の散兵線を突破し、
彼ら擲弾兵は4,5日前の豪雨など嘘のような快晴の空の下を走り出した。
北西では空まで立ち込める程の土埃が激しく舞っていた。



マイバッハエンジンが低く唸りをあげ、
ゆっくりと5号戦車小隊は前進を開始した。
小隊長のカール・ハインツ・メッツガー少尉が、
ハッチを開けキューポラにだらしなく上半身を預け、
前方に広がるヒマワリ畑を苛立たしげに見つめていた。

昨日のことである。
255.2高地を攻略する為に、北側面に投入されたメッツガーの小隊は
居並ぶヒマワリの畑に視界を遮られ、400m東で行われていた
壮絶な戦車戦に取り残されてしまったのだ。
彼らが駆けつけたときには、そこに赤軍戦車部隊の
無残な残り香しか存在しなかった。
メッツガーは非常に好戦的な男だった。
しかし、彼の嗜好とは裏腹に、
このチタデル作戦の縦深陣地での戦いにおいても、
彼らが戦ったのは憎きイワンではなく、この5号戦車の変速機であった。


メッツガー少尉の小隊は、歩兵小隊と協調しゆっくりとした前進を続け、
ヒマワリ畑を抜けた。
その先には開けた空き地があり、その先の中空には砂埃が舞っていた。
メッツガー少尉は咽喉マイクに、興奮を押さえ勤めて冷静に発声した。
「小隊散開」
「司令部・・・司令部。第一戦車小隊、敵装甲部隊を発見。
 規模不明。これより交戦する、以上。」
どのように苛立って居たとしても、彼は彼自身の小隊の為ならば
それを押さえ込むことができた。
彼は戦車兵だった。
やがて、強い日差しに当てられた濃緑色が、メッツガー個人の嗜好と、
戦車兵カール・ハインツ・メッツガー少尉の任務を果たす為に姿を現した。
土埃が当たりに立ち込めた。
作品名:最小の抵抗と最大の反撃 作家名:江波