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ジェストーナ
ジェストーナ
novelistID. 25425
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好きして! sister&darling

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玄関先にある全身鏡の前で軽く髪を直し、今日のメイクの仕上がりを確かめ、制服を整える。スカートの丈がちょっと短めなのは、女子高生と、それともうひとつ恋する少女の矜持というものだ。菅野彩は自分の身支度を終えると、背後でもたもたローファーを履いている双子の妹に向かって声を張り上げた。
  「ユイ、準備できた?」
  「うん、出来たよアヤお姉ちゃん」
  「じゃあ学校行くよ!」
  「うん!」
  そう言って妹は――――彩の双子の妹・結依は、元気よく彩の腕に飛びついた。


  いくら一番近い遺伝子を持っているとしても、所詮は別の生き物だ。育ってきた環境が一緒でも、姿かたちがまるで同じ鋳型から作られたかのようにそっくりでも、中身まではそうはいかないのが生命の神秘である。
  妹の結依は、少し我儘なところもあるが、基本的には極度の甘えん坊で、何より姉の彩を好いていた。おしゃれや流行に敏感で、女の子らしい格好をして街を歩けば、誰もが振り返るほど可愛らしい。男子曰く『守ってあげたくなる』『理想的な彼女』タイプということらしい。
  一方姉の彩はそれとは対照的だった。姉としての責任感がそうさせたのか、さっぱりした姉御肌の持ち主で、スポーツが得意でボーイッシュだ。家事全般は得意だったが、それが活かされることはあまりない。
  さて、そんな正反対の姉妹だが、それまでは普通よりも仲が良い姉妹だった。
  しかしここに来て問題が起きている。
  それは……

  (……相変わらずのモテっぷりですこと)
  学校側から各自与えられる指定のロッカーには自分で鍵を買ってきて、それをつけることになっている。結依は南京錠をつけているが、彩のほうは盗まれるようなものはないと言って鍵をつけていなかった。そうしたら、なんとラブレターの山、山、山。しかも彩宛てではなく、すべて結依宛てだというのだから腹が立つ。
  「ちょっとユイ、あんたにラブレターきてるよ」
  「ええ〜……」
  毎朝毎朝繰り返される光景に、ユイはげんなりとした表情を見せた。
  「……やだ。ユイ、それいらない」
  「いらないじゃないでしょ! あんたを想って手紙を出してきてるんだから、ちゃんと受け取りなさい。そうじゃなきゃ相手に失礼だ」
  「だって、お姉ちゃんのロッカーに手紙を入れるような人、ユイ好きじゃないもん」
  「いいから受け取るだけ受け取りなさい。それをどうするかはあんたの自由だから」
  「う〜……お姉ちゃんがそう言うなら……」
  結依は渋々といったふうに彩から手紙の束を受け取った。拗ねて頬を膨らませる妹の頭をぽんと撫で、彩はローファーから上履きに履き変えた。そこで、やってきたクラスメート何人かと一緒に教室に向かう。
  階段を昇りながら、朝の話題はいつも結依がもらったラブレターのことになる。
  「って言うかさぁ、今時ラブレターはないよねぇ」
  「素でありえないんだけど」
  「つーか、ありえないってのは毎朝それを受け取るあたしの台詞だ」
  「アヤも大変だね本当に」
  「大変なのはお姉ちゃんだけじゃないよぅ……ユイだって、受け取って返事を書くの大変なんだからねっ」
  「うわ、今の発言マジうぜぇ」
  「世が世なら本気で粛清モンだったねユイ」
  きゃははは、と、楽しそうに笑い転げるクラスメートたち。一緒になって笑いながらも、
彩の表情はどこか冴えない。
  結依はそんな姉の袖をぎゅっとつかむと、上目遣いで彩を見上げた。
  「どうしたの? お姉ちゃん」
  「……別になんでもない」
  「嘘」
  「だから、別になんでもない……」
  そういって手を振り払おうとした彩だったが、袖をつかんでくる結依の表情を見て、ぎょっとして行動をやめた。結依の大きな瞳に浮かんでいたのは、まぎれもない涙だったからだ。
  「どっか痛いの?」
  「い、いや……」
  「じゃあ悲しいの?」
  「だから別に……っ」
  「……おねえちゃんがヘコんでるの見ると、ユイも悲しいよぅ……っ」
  そのまま結依の双眼からぼろぼろと大粒の涙がこぼれる。彩はわたわたするが、クラスメートたちは皆揃って苦笑した。
  「あーあー、また始まった」
  「学校一の美少女も、実はとんでもないシスコンでしたなんてね」
  もはやクラスメートたちは慣れきっていたので、結依が突然泣き出しても慌てることも ない。それどころか予鈴を聞きつけて、足早に駆けて行ってしまう。どんどん人気の少なくなっていく階段で、彩はまだ泣いている結依の手を引いた。
  「ほら、遅刻になっちゃうから行くよ」
  「お姉ちゃん……」
  「あたしは別にどこも悪くないし、悲しくないよ。だから大丈夫」
  「……うん」
  つないでいる手の温もりと口調から、彩が普段通りであることを悟ったのか、結依が自分のワイシャツの袖で目元を拭う。彩は苦笑して、ハンカチを差し出した。結依は素直にそれを受け取り、涙を拭く。
  「あたしは大丈夫だよ。それより泣いてるユイを見るほうが気分悪いわ」
  「うん……ごめんね、お姉ちゃん」
  「謝らなくていいってば。ま、泣いてるユイも可愛いけどね」
  「え……、あ、ありがとう、お姉ちゃん」
  「もう行くよ。先生が来る」
  「うん! ユイ、お姉ちゃんが一番好き! だ〜い好きっ!」
  いま泣いたことなんてもう忘れたらしい可愛い笑顔を見せて、結依は彩の腕に飛びついた。彩はそれを振り払わず、引きずるようにして歩き出す。背後からは担任の教師が昇ってくる足音が聞こえており、あんまりここに長居すると本当に遅刻になってしまいそうだった。