明智サトリの邪神事件簿
アトラク=ナクアは牙で囲まれた大きな口を開き、先生に向けて糸を吐いた。それは滝のように大量に放出され、一瞬で先生を飲み込み、そのまま後ろの壁に叩き付けた。
「せ、先生!」
壁に貼り付けられた先生目掛けて、鎌のような脚が振り下ろされる──!
しかし先生は臆することなく、目を見開いて叫んだ。
「目覚めよ! 旧(ふる)き神──『ノーデンス』!」
刹那、先生の体から眩しい電光が走った。それは糸を伝わって、アトラク=ナクアを感電させる。
「ギキイイイイイイイ!」
先生を包んでいた糸が内側から切り裂かれる。
先生の右腕は、銀色に輝く雷光の剣に変わっていた。
彼女自身も、ある強大な存在と合体していて、それ故に様々な知識や力を持っているのだ。
先生はそのまま痺れて動けないアトラク=ナクアに飛び込む。
「大いなる深淵の大帝の前に──滅せよ! クラウ・ソラス!」
剣から放たれた光の扇は、一瞬でアトラク=ナクアを両断する。
邪神は少し震えた後、閃光を伴って爆発し、その身体はバラバラに飛び散った。
広間の中は土煙と霧状の血に包まれていた。
その中で先生は立ち尽くしている。剣になっていた右腕が元に戻っていく。
「……明智先生……」
わたしはただ、その場から先生を見つめていた。
先生があの力を使うのを見るたび、彼女も一種の「怪人」なんだということを思い知らされて……不安になる。
先生もいつか怪物になってしまう……そんな気がして……。
先生と合体しているノーデンスは、いわゆる邪神ではなく、邪神と対立する陣営に属する神で、その力を利用すれば、人間でも邪神と戦うことが可能になるという。だけど、恐ろしい力を持ったよくわからない存在という点では、邪神と何も変わらない……。
そんなわたしの不安に気付いたのか、気付いていないのか、やがて先生はこちらに歩いてきて。
「ほら、何ぼさっとしてるんだ小林君。他に敵がいないか確認するぞ」
「あ……は、はい!」
いつも通りの態度に、わたしは安堵した。
作品名:明智サトリの邪神事件簿 作家名:よもぎ史歌