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dal segno senza fine

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marcato



音也は事務所から帰ってすぐ、自分の部屋ではなく愛おしい作曲家の部屋にお邪魔していた。
行き成りやって来ると聞いて彼女は電話口で遠回りに断ったが、音也が強引に承諾を得たのである。

入った瞬間に、部屋の中には甘い香りが漂っているのが分かった。
チョコだね?と意地悪そうに聞かれて、彼女は頬を染めこくりと頷く。
まだ途中なのだと言う。

「じゃぁ、俺も手伝うよ!」

結果二人で創る事になった。
後で皆に持って行こうと思っていたんです、と彼女の言葉を聞いて音也は少し胸がちくりといたんだ気がした。
自分と皆は同列なのか、と。

チョコレートとチョコクッキーの製作が終了し、彼女が袋に詰め始める。

「へぇ、やっぱり女の子は凝り症だね」

創ったぱなしではなく、袋詰め。
しかも色とりどりのリボンも準備し、そのリボンもそれぞれ渡す相手のアイドル用のテーマカラーに準拠してる。

「本当にやるならとことん、だねぇ。俺は無理だなぁ、此処まで考えられないや」

手伝いながら、本気で感心している音也。
器用に詰めてリボンで結ぶ彼女に対し、リボンが縦結びになったりチョコが正面ではなく背面を向いてしまい見栄えが良くないものを彼は作ってしまう。
その度に彼女が修正するので、時間は必要以上にかかっている。
何とかパッケージングまでも完成させると、彼女は音也に紅茶を淹れた。

「しかし、バレンタインデーって大変だね。俺女の子じゃなくてよかったなぁ」

紅茶を飲みながら、音也は大きく溜息をついて先程までの作業を振り返っていた。
同時に、シャイニング早乙女が事務所で言っていた、愛の量・質の事を思い出す。
彼女の愛は、どんな形でどんな甘さで、どんな重みで、俺に渡されるんだろうと…そう考えてしまう。

「ねぇ」

音也は知りたくなった。
だから、無茶なお願いもしてみる。
きっとこれは、あのチョコ部屋にあったチョコ達が出来ない事。
愛のしるしであっても、もっと直接的な触れ合い。
心だけではなく、身体も全部。

「俺宛てのチョコさ、君が食べさせてくれない?」

その言葉を聞いてびっくりした表情を浮かべる彼女。
下を向いてもじもじしながら、分かりました、と小さく答える。
いやいやではなくて、恥ずかしいだけなのであるが、その下を向く仕草さえも今の音也にとっては苦しいものでもある。
余計な、少しマイナスな事を想像させるからだ。

彼女がチョコを指にとって音也の口元に持って行こうとする。
その手を取って、違うよ、と音也は彼女にいたずらっ子な表情で訴えかけた。
指につままれていたチョコをパクリと口に入れ、音也は表紙に彼女の唇に唇を深く重ねる。
三十秒もなかったはずの口づけ。
それでも、お互いの吐息とチョコレートの甘さが口の中、喉に溢れだしている。
唇が離されても、顔の紅潮は消えない。
体温も何度も上がっている感じがする。
熱に酔って、甘さに酔って、口の中で溶けてしまったチョコレートの様に二人は溶けあって一つになっているかのようだった。

「ご、ごめん…っ、つい…その…心配になって…」

心配?と彼女は首をかしげる。
音也は正直に自分の心を吐露した。
自分と周囲への愛情の差はなく、全く同じ扱いを受けているのじゃないかという心配。
ひょっとして、自分は彼女にとってそんなに大きな部分を占めていないんじゃないかという不安。
どこまでも答えが欲しいと我儘を言っても嫌がられるような、そんな自分の汚い部分。

「あぁぁ!もうほんと、御免!」

勢いよく頭を下げる音也に対し、彼女はキョトンとした表情をしている。
彼女は椅子から離れた。
動く影が音也の眼の端に映っていた。
本当に駄目だな、と心の中で重い気持ちが広がって行く。

すると突然、聞いた事のある曲が響いた。
音色は優しいピアノ。
今度は、勢いよく顔を上げる音也。

「これ…」

聞こえてきたのは、自分たちが最初に一緒に作った曲だった。
そんな昔じゃないのに、とても懐かしい気がした。
あの時は色々あった、かなり無茶な事もさせられたし、何よりも「恋愛禁止」と言うのが一番辛かった。
今は、勿論隠す必要はあるが随分前よりは気持ちとしては楽な気がする。
好きな人に好き、と何度でも告げられる時間は、幸せの何物でもない。

弾き終わった彼女の言葉に、音也は勇気づけられる。
そして、自分はもっと強くならなければいけないと、そう思うのだった。
この関係を終わらせない為に、自分が出来る精一杯を。
片一方の頑張りでは駄目だ。
彼女への愛情と音楽への愛情を。
どちらも両立する為に。


----私は一十木君が好きです。大好きな人の曲を作り続けたいです。
  皆の事も勿論好きだけれど、でもやっぱり一十木君じゃないと駄目なんです。
  もっと元気に、もっと切なく、一十木君の中にある想いを私に、そしてみんなに伝えられるように。
  沢山沢山、音也君に大好きって言って貰えるように私…頑張りますね。

作品名:dal segno senza fine 作家名:くぼくろ