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dal segno senza fine

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sotto voce


レンは事務所を出てから携帯を即取り出して電話をした。
五度目のコール音で相手は出る。

「やぁ、レディ。仕事の方は順調かい?ちょっとこれから時間あるかな?…ん?そうかい…じゃぁ夜の一時間だけ俺にくれないかな。打ち合わせが終わってから俺に電話してくれる?」

話しが付いた。
彼女が忙しい事は知っている。
自分の誕生日に一日一緒にいられないと言う事をとても悔やんでくれていた。
仕事だから、と何時もは彼女が自分に言ってくれる言葉を彼女に渡して安心させようとした。

(違うな…)

レンは首を振る。
安心したかったのは彼女ではなく自身だという自覚もある。
彼女の事になると、タガが外れて自分が自分でなくなるような感覚に陥る。
もっとスマートに何かに捕らわれる事無く、好き勝手に生きていたと言うのに。
彼女に出逢って、創られる曲に揺さぶられて、飾りのないまっすぐな彼女に魅せられて…自分は今「愛」を歌うようになっていた。

確かに世のレディ達は大切な存在だ。
彼女たちに対して、愛を歌うのはアイドルである自分の使命であり、役割であり、自分のやりたい事だ。
だが、その中身の違いは一目瞭然だった。
その人生の中に居続けてくれる愛しい存在はただ一つ、ただ一人。

心に決めた人に愛を歌う。
それを誰かが聞いて自分の事だと錯覚する。
彼女も自分も幸せのお裾分けをしているだけなのかもしれない、と思ってしまい苦笑してしまった。
そんな単純なものなのだろうか「愛」とは…、と。

考えがまとまらないま、街を歩いても意味がない、と思った。
先程の電話の相手をもてなす準備をしなくてはいけない、と認識したのである。
即彼は神宮寺系列の店に電話をし、窓際の一番綺麗な夜景が見える席を完全に予約した。
本当は店ごと借りきりたいが当日行き成りでは、兄たちに迷惑がかかる。
そんな暴君みたいなことはしたくないし、するつもりもない。
自分の流儀に反する。
何事もスマートに、かつエレガントに。

予約した店の事を彼女にメールで伝える。
住所と連絡先と、ジョージに連れて来て貰うように、と言うメッセージも忘れなかった。
本当は迎えに行くつもりだった。
何故か今日は「待ちたい」と思った。
ぼんやりと、輝く光を見ながらまだかまだかと…自分を追い詰めたい気持ちになっていた。
そうすればもっと違う自分の中の彼女への愛情が見えてくるのかもしれない、とレンは考えたのである。

待つこと数時間。
二十一時。
彼女からの連絡があった。
それまで見ていた景色は色とりどりなのに、まるでグレースケール。
連絡があったと言う事だけで、世界が輝きだした。
総天然色。
空は星の光と、ぼんやり見える月明かりしかなかったというのに。
人工的な光の色さえも、温かみのあるものに変化していた。

十数分後、彼女がやってきた。
洋服はジョージに渡してあったものを着てくれている。
一応ドレスコードの有る店だからと着用をお願いしたが…想像以上に似合っており、レンにとっては自分の目の保養のためにもなっていた。

「やぁ、ハニー。こんばんは。今日は来てくれてありがとう」

当たり障りのない言葉で誤魔化しながら、席を立ち彼女を迎える。
胸の奥には、彼女への愛の言葉が湯水のように湧き過ぎて上手く言葉に出来なくなっているのを感じた。
待ち続け多分、その想いの大きさが自分でも制御できないものになっている。
自分が知りたかった”違う愛情”、と言うものではなかった。
ただひたすらに、強く思う気持ちだけが大きく膨らんで行ったという事実にレンは少し面喰いそうにもなっている。

彼女は恥ずかしそうな表情で勧められた席に座った。
夕食はまだかと質問されると彼女は小さくまだです、と答える。
軽く食べられるものを注文して、その間は互いに今日あった事を話す。
チョコ部屋については、流石…シャイニング事務所と皆さんです…、と呆気にとられていた。
その表情もとても可愛らしい、とレンは眼福だった。

テーブルに並んだ食事を楽しみつつ、お互いの今後のスケジュールの話になる。
少し擦れ違いが多いようだった。

「夜だけど、なるべくハニーの部屋に行きたいな。駄目かい?」

とレンは普段よりもさらに甘く切なく囁くと、顔を真っ赤にして小さな声で大丈夫です…と答えてくれる。
その光景が、彼にとってはほほえましく、又彼女が自分の傍にいてくれるという確信に近いものを感じさせてくれると思っていた。
何となく、彼は目の前にいる女性が困ったり恥ずかしがったり喜んだりする、そのラインが見えている気がしていた。
分かったからと言って形にはめて対応する気はないが、みたい表情を最短の距離で手に入れられるのは今の距離の特権だろうと考える。

店の音楽が優しいピアノの楽曲に変わった。
食事も終わり、少々甘めのデザートが来る。
不思議そうな表情をレンは浮かべた。
彼の目の前に置かれたものは、この店では出されないものであるだけでなく、自分は注文していなかった。
店員に質問する為に声をかけようとしたところに、彼女が言葉を挟んだ。

一つ一つの言葉がレンの耳に届く。
可愛らしい声で、体の芯まで染め上げてくれるようなそんな心地だった。

「ありがとう、ハニー。君の声、君の音楽、君の唇、君の言葉。もうそれだけで十分俺は幸せだよ」

彼女からの愛に満たされて行く感覚で体が勝手に動いて、レンは彼女に優しく口づけをした。
二人の視線が重なり合って、頬笑み合う。
街の光は地上にいる二人を空以上に照らし続けていた。

----今日は、神宮寺さん…だ、ダーリンの、誕生日なので。
  お店の人にお願いして、さっき自分で作った甘さが強くないデザートを…出して貰いました。
  今の時期だとチョコだし、ファンの方からも一杯もらうでしょうし。
  少し違う、自分の出来る事をプレゼントしたかったんです。
  後、今掛かっている音楽…私からのプレゼントです。
  誰かの為じゃなくて、貴方のための楽曲です…受け取ってくれますか?


作品名:dal segno senza fine 作家名:くぼくろ