白猫百物語
第一話 T団地の怪
都内某所にあるT団地での出来事。
マスコミの報道が切っ掛けで自殺の名所になった団地である。
有名すぎるその場所は、100人を超す自殺者が絶えないという。
ある時、友人であるK君がその団地に住んでいるという話になった。
当時、K君は私に多少なりとも好意を寄せてくれていたらしく、よく話しかけてくれた。
直接告白をされたわけではない。もちろん自惚れでもない。
その成り行きで、住んでいる場所の話から今回の事実が発覚したわけである。
「今度うちの団地に遊びにおいでよ」
K君が切り出した。
私はなんとかごまかしてやり過ごそうと考えたが、今までに『かわして』きた数は数知れず。
小さな頭脳では他に上手い『かわし文句』が浮かんでこなかった。
結局、平日の空いた昼間に少しだけならという事でお邪魔させて頂いた。
前々から知ってはいたが、足を踏み入れたことは無かった。
いざ行ってみると、何てことはない、普通の団地のような気がした。
昼間だったからだろうか。
団地内にある本当に小さな公園で待ち合わせをしたが、私の方が早く着いてしまった。
その日は少し蒸し暑く、木陰になっているベンチでぼんやり彼を待っていた。
ふと気がつくと、誰もいないはずなのに、公園のブランコが揺れている。
風のせいだと考えたが、ブランコが揺れる程の風は吹いていない。
明らかに誰かが漕いでいるような振り幅だ。
だけれども、不思議と怖い感じはしなかった。
するとK君が手を振りながら到着。
その公園で冷たい缶コーヒーを飲みながら他愛もない会話をしていた。
「そうそう。聞いてほしい事があったんだよね。」
K君が切り出した。
「最近眠れなくて困っているんだ。」
そう内容を語り出した彼の顔は少し青白い。
何故かと問う。
「子供が騒ぐんだ。」