小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

都合のいい身体

INDEX|1ページ/1ページ|

 


さぁ、この時が来たわ。

意気込む私。
彼は目の前で、いつものように服を脱ぐ。
この舞台に必要な役者は私と貴方。それ以外に何もいらない。

今日は午前中から晴れ。
天気すらも私に味方しているのだから、勝敗はすでに決まっているでしょう。


私にはもう時間が無い。
幼い頃から常に私の隣で蹲っている病。
そろそろ爆発しても可笑しくは無いのだけれど、それでも私を生かすのは。

だから私は今を大事にするの。
貴方と唯一向き合えるこの時間を。


この窓の外から見える、ペアルックを見て思う。
どうして私はあの人たちと同じには成れないのだろうと。
そして思う。
どうして貴方は、私を選んだのだろうと。


貴方が思っているほど、私は完全な人間では無いし、また不完全でも無い。
どういう事かなんて、貴方が一番よくわかっているはず。
私はこの世の不条理を良く知ってはいるけれど、反対の事は良く分からない。
知ろうともしないもの。
だけど、私は貴方より知ってるはずこの世の全てを。
見くびらないで、その辺の女と一緒にしないで。
ただひたすらに、貴方を咥えて喜んでいるわけじゃないの。



「煙草取って。」
貴方のいつもの台詞に、私は何も装備していなかった。
手渡した瞬間に見せた貴方の表情から、私はこれが最後なのだと瞬時に悟った。

貴方はこれまで、無表情で受け取っていたはずのそれ。


(嗚呼、そう。)


貴方はもう関係だけだった私を見捨てて、本当に大事な人と完全に向き合う気なのね。


「はい、ライターと灰皿。」


私が手渡すと、至極驚いた表情で私を見た。
そこまで気を使う私が珍しかったのだろう。
ありがとう、とほとんど耳にした事が無い言葉を吐きながら、煙草を吸い始めた。


私は試しに言ってみた。

「この間、彼氏から料理が上手って褒められたの。」


「掃除だって、実は趣味で細かい所までやっているのよ。」


「節約っていうのかな、いらないものといるものの区別を付けるようにしているわ。」


けれど、貴方の答えは全て素っ気無いもの。

ねぇ、私だってこれくらいできるの。
貴方が望めば、これ以上の事ができるのよ。
夜だって、こうして貴方が望む事をしているじゃない。




思い起こせば、貴方程想う人は居なかった。
簡単に私を置いて逃げた人。
私を想い過ぎていった人。
裏切った人。

男と女の関係なんて無ければいいと思っていた。
そう考えると、とても楽になった日もあった。


けれど、貴方と出会ってから。
どうでも良いと思っていた人生が全部変わってしまった。
どうしても欲しくなってしまったの。
例え既に誰かのものであったとしても、私はどうしても貴方が良いと知ってしまった。

笑顔も涙も怒りも全部受け止めてあげる。
私にはその自信があるの。



ピリリリリ ピリリリリ・・・


突如鳴り響く貴方の携帯電話。
通話先はきっと。


「うん、わかった。大丈夫、そろそろ帰るから。」


嬉しそうな顔で、私には見せない顔でそう言う貴方。
嗚呼、どうしてこんなにも辛いの。
私の方こそ用事があったらいいのにと思う。
そしたら、きっと今酷い顔をしている自分を見られなくて済むのに。

今日こそは言おうと心に決めた私の想い。
貴方が好きだと、上っ面ではない心からの本心だと、そう言おうと思っていたのに。


もし、私が世間一般の女の人なら貴方は私を認めてくれた?
こんな、得体の知れないただの風俗嬢じゃなければ、貴方は私を真正面から見てくれた?



「ねぇ、電話はもう済んだ?」

この想いが伝わらないなら、お願い。
いつものように、私の身体を火照らせて。

そしたら私は、その変わらぬ熱でいつものように絆されてあげるから。



作品名:都合のいい身体 作家名:椎名月夜