カシューナッツはお好きでしょうか?
1.ふけさん
今日もまた、ぶらりとオフィス街を歩いていると、ある建物に目がとまった。その建物はいわゆる『貸しスタジオ』として使われている建物であった。私は何の気なしにその建物に入った。
今年で二十八になる、超老け顔の私。昔から老け顔で、中二の時についたあだ名が『ふけさん』な私。見た感じ、五十歳くらいのおっさんにしか見えない私。……そんな私が勝手に建物に入って、呼び止められないわけがない。
「どちら様ですか?」
当然のように私は呼び止められた。
「社長です」
私は堂々と、歯切れよく答えた。今までの経験から言って、こういう場合は堂々としていたほうがかえって怪しまれないものだ。
「しゃ、社長ですか!?」
「うむ。そうだよ。何だね、ここの人間は社長の顔もわからないのかね?」
私は相手の言葉にかぶせる様に、少し威圧的な態度で言った。
「そ、そんなことはありません。ちゃんと知っていますよ。まさかいらっしゃるとは思っていなかったので。来る前に連絡していただければよかったのに。ささ、どうぞ。オーディション会場はこちらになります」
完全に私を社長だと思い込んだ若い男性は少し早口でそう言うと、『オーディション会場』なるところに私を案内してくれた。
はて? オーディションとは? いったい何の?
私はそんなことを考えながら若い男性の後に続いてオーディション会場へと足を踏み入れた。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ