カシューナッツはお好きでしょうか?
18.ふけさん
「恋して〜♪ 恋してラブミー♪」
数年前、少し話題になったアイドル『立ち漕ぎシスターズ』の代表曲『恋してラブミー』を歌う少女。その姿は、ショッピングをしているときよりも、ランチで5人前の餃子を食べているときよりも、ボーリングでストライクを出したときよりも、カフェで巨大チョモランマパッフェを食べているときよりも、ゲーセンで昇竜拳を連発しているときよりも、輝いていた。
「恋の隙間は開けたらダメよ〜♪ フトモモ閉めて逃がさない〜♪」
まるで別人と思えるほど、少女はキラキラしていた。そのキラキラは、けして眩しいキラキラじゃなくて、触れたら壊れてしまいそうな儚(はかな)いキラキラだった。「完全」にはない、「不完全」だからこその魅力。彼女の歌う姿には、それがあった。
「すごい! すごいよ!!」
私は彼女が歌い終わると同時に立ち上がり、無意識のうちに拍手をしていた。私はこのとき初めて、「アイドル」というものを理解した。
アイドルは人に勇気を与える仕事でもなければ、ましてや憩いを届ける仕事でもない。がんばっている自分を見せ付けることで、あがいている自分を見せることで、「この子のために何かしてあげたい! この子のために何か自分にできることはないだろうか?」そう、ファンに思わせる仕事なんだ。
自分以外の誰かのために生きることのスバラシさを伝える仕事、それが『アイドル』なんだ……
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ