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てっしゅう
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「哀の川」 第二十二章 誘惑

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第二十二話 誘惑


「早見由佳と言います。よろしくお願いします」
「さあさあ、挨拶はそれぐらいで、早速始めようじゃないか」
美津夫はボーイを呼んで飲み物の注文を取らせ、乾杯しようと言った。純一と由佳はお揃いでコーラ。後はみんなワインにした。乾杯をして料理が運ばれてきた。
一つ一つ料理人が内容を説明してゆく。さすがに最高のレストランである。初めて食べるその味に由佳は感心していた。裕子が話しかけてきた。

「由佳さんは、ずっと東京なの?」
「はい、そうです。今のところが実家なんです」
「そう、ご兄弟は?」
「私一人っ子なんです・・・」
「純一と同じね。お母様は仕事なさっているの?」
「いいえ、していません。頼まれて歌を教えているようですが・・・」
「歌をね・・・お上手なのね?」直樹が口を挟む。

「そうなんだよ!とても歌がお上手で・・・なあ、麻子、純一」
「ボクも聞いてビックリしました。元歌手みたいでした」純一が答える。
「へえ〜一度お聞きしたいわね。杏子さんのお店に行かれているの?」
「はい、良くお邪魔しているようです」
「わたしも今度行って見ようかしら・・・ねえ、あなた?」
「そうだなあ、カラオケか・・・興味はあるな。場所はどこ?」
「人形町だよ。行くなら僕が連れて行ってあげるよ」純一は美津夫にそう返事した。頷いて「頼むよ」と返した。

「私が言うのも変だけど、由佳さんって16歳よね?」
「はい、そうですが・・・」
「化粧しているとすっかり大人に見えるわね。とてもきれいよ。お母様が羨ましいわ・・・こんなお嬢様がいらして」
すこしやっかみ気味に麻子は話した。

「おば様、褒めて頂き嬉しいです。いつも子供扱いされるので、嫌だったんです」
「純一はいたらないと思うけど、よろしくね。時々家に遊びに来て頂戴ね、色々お話したいから・・・そうだ、あなた例のモノ出して!」

直樹は椅子の下から紙包みを出した。麻子がそれを受け取り、由佳に渡した。
「これはね、私たちからの由佳さんへのプレゼントよ。これからも純一がお世話になるから・・・遠慮しないで受け取ってね」

知らされていなかったから、純一も由佳もあっけに取られてしまった。

「ええっ!そんな・・・純一さん、どうしましょう?」
「貰っときなよ。それより開けて見ようよ!何が入っているのか楽しみだから」
「おば様、おじ様、ありがとうございます。開けさせて頂きますね」
「ああ、どうぞ・・・喜んでくれるといいけど・・・」直樹はそう言った。

中から出てきたのは、由佳が欲しいと思っていたハンドバッグだった。大人のたしなみで出かけるときに持ちたいと前から考えていたが、まだ早いような、自分でアルバイトして買うまでは
我慢しようと諦めていたものだった。

「嬉しいです!とっても素敵なバッグです!こんな高いもの頂いてよろしいのですか?」
「お似合いよ、あなたにはそれぐらいが相応しいから、選んでよかったわ、ねえ直樹さん?」
「そうだよ、気にしなくても構わないから。純一とは仲良くして下さいね」
「はい、もちろんです」

裕子は二人の仲を知っていたから、とてもいいプレゼントをしたと麻子を褒めた。麻子は、由佳のような子がお嫁さんに来てくれれば、自分も嬉しいと、素直に言った。
二人とも女としての苦労を経験しているから、純一たちにはこのままハッピーエンドにして欲しいと願っていた。そのためには、時々プレゼントをしたり、食事に誘ったりしようと考えていた。
食事会は楽しく終了した。直樹が呼んだタクシーが玄関前に着いたので、裕子たちと一緒に乗り込んだ。純一は由佳を家まで送って行ってから帰ると、歩きで地下鉄駅まで行った。

由佳と別れて、帰りに久しぶりに杏子の店に顔を出した。いつもの客が元気に迎えてくれた。そしてその顔ぶれの中に意外な人物を発見した。

「あら!純一、どうしたの?ははん〜彼女送って来ての帰りだなあ、違うか?」
「そんなところかな・・・久しぶりに杏ちゃんの店に寄ろうかって、寄り道しちゃった」
常連客の一人が近寄ってきて、自分たちの席に座っている女性を紹介した。歌が物凄く上手い人だと付け加えて・・・

「山本先生!ビックリしました。もう来られたんですか?」
「純一君!そう、君に紹介してもらってなんだかすぐに来たくなったから、さっき来たのよ」
周りは親しく話しているのを見て、「なんだ、知り合いだったのか・・・」などと残念がった。杏子も意外なようで、どんな関係なのか知りたがった。純一は自分の学校の先生、それも部活の担任だと話した。

「どんな関係だったら良かったの?男の人は嫌だねえ〜変な事ばっかり考えて」
「ママ!それはひどいよ、言いすぎだよ。純粋に知りたかっただけなのに・・・」
「まあ、そういうことにしておきましょう・・・フフフ・・・」
純一は山本の隣に座った。席が窮屈だったので二人はピッタリとくっ付いていた。純一は少し気が引けたが山本はむしろ喜んでいる感じに杏子には見えていた。

「純一君、歌いましょうよ。私は今度ユーミンの中央フリーウェイ♪を唄うよ。キミは何が得意?」
「ボクですか・・・パパが歌っていた因幡晃のわかって下さい♪にしようかな」
「いい歌だね、是非聴きたいわ」

二人は合宿に行ったバスの帰り道のようにすっかり溶け込んで話し始めた。その光景は杏子には危険な方向に行きそうに映っていた。

純一は山本先生の歌の上手さは聴いて知っている。今度は山本が純一の歌を初めて聞いた。唄い終えて、席に戻ってきたときに大きな拍手をした。

「純一君!素敵よ、甘い声しているのね・・・先生気に入っちゃった!次も聞かせてよ」
「へえ〜嬉しいなあ・・・先生にそういわれるとなんか恥ずかしいですよ!ここは皆さんお上手だから・・・」

男性客は女性の客に何かと構いたがる。ちょっかいを出して、仲良くなろうと言う下心があるのだ。ママにちょっかいを出しても軽くあしらわれるから、
女性客それも一人だったりすると待ってましたとばかり、言い寄るのだ。それが嫌で来なくなった人も居るようなので、杏子は行き過ぎた勧誘を注意していた。

この日も初めて来た山本になじみの男性客は声をかけ、結果二人で囲んで座ると言う形になっていたのだ。純一が来てむしろ山本は助かった感じがしていた。
自分が話したいのは店の男性客達ではなく、純一の方だったからである。

「先生また来るから一緒して!これ先生の携帯番号・・・メモしておいて」
「はい、・・・先生携帯持たれているんですね。僕も買おうかな・・・なんだか欲しくなっちゃったから」
「そうしなさいよ!買ったらすぐ知らせてね。絶対によ!」
「はい、必ず・・・」
純一は山本・・・いや環先生がやけに自分に積極的なことに違和感を覚えた。なんというか、誘われているような錯覚に陥ってしまった。家に帰って、父に携帯の話をした。
母親が勧めていたぐらいだから、反対は無かった。

ドコモのムーバ折りたたみが届いたその日に環に電話をかけた。