Hallelujah
或いは神が真に存在するのならきっと碌なことが在りませんよ、との言葉に、少女は、それでも、と静かに言う。
「誰でも、神を願うのだと思うわ」
「少なくとも僕が願うのは、神ではありません」
神父が左手をゆっくりと持ち上げ、白く滑らかな頬に指を這わせる。ぴくりと少女の肩が小さく揺れるのに構わず。神父の指が少女の右の目尻をするりと撫ぜる。
神父は自ら初めて、少女の肌に触れた。
「ねえ、先生。貴方が真実欲しているのは何?」
撫でられる肌の、初めての感触に身を委ね、少女は心地良さに目をゆるりと閉じる。触れた部分が熱を帯びる。果たして、少女の頬が熱いのか、神父の指が熱いのか。
「僕は貴女の右目が一等欲しい」
「わたしは先生のすべてが欲しい」
吐露したものを心の内で反芻して、少女は、ああ、本当に、欲しい、と願う。目を開けて、神父の瞳を見つめながら切に願う。
「この右目が先生のせいだというなら、その責任を取らせるのにね、先生」
それは光栄です、神父が左手を頬から少女の右腕に滑らせて自分の首元から外した。そのまま手の甲を唇に寄せる。離れたときに小さく音が鳴った。制服の袖、ブラウスの下にするりと神父の指が入り込む。その細い手首を掴んで、そのまま少女の薬指を舌に含んだ。甘い。
「ああ、腹立たしい」
「そうですか」
「まだわたしの知らない本性があったなんて」
ずっと隠していたわね、少女が不満げに目を細める。
「ああ、そんな顔はしないでください」
それに、本性も何も僕はご存知の通り欲張りなので独占欲は強いのです。
足の、その右膝に少女を座らせる。スカートから少女の剥き出しの膝がのぞく。手と同様に白く細い。少女の黒髪が神父の頬にかかる。それぞれの額と額が触れて、やっと、此処まで縮まった距離に、少女は息を吐いた。神父は少女の甘い香りに満たされる。
ほぼ目の前にある少女の右目を微かに舐める。やはり甘い。少女はほんのり紅く、恨めしそうに神父を見つめる。その表情さえもまた甘く、ああ、彼女は何処までも甘いのだな、と神父は少女を想う。
そうしてどちらからともなく唇を寄せた。
作品名:Hallelujah 作家名:藤中ふみ