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落葉する季節 - リライト版 ゴーストハント 完結記念小説-

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2-4



「お待たせ」
しばらくして戻ってきた勇人さんは、紅茶とチュロスをあたしに渡しながらニカッと笑う。
「ダチん所からチュロス奪ってきた」
本当に仲の良い友達なんだとわかる、今までで一番楽しそうな話し方。今までの少し抑えた雰囲気とは違っている。
あたしたちはどこに向かうともなく歩きながら、チュロスにかぶりつく。
「おいしい!」
外はサクッと、中はふんわり甘い。
「男の人が作ってるんですよね」
「うん、しかもサッカー部の奴らね。千葉にあるネズミ王国で感銘を受けたOBが始めて、代々レシピが受け継がれているんだと」
「ぶっ」
代々のレシピのくだりに本気具合を感じ、つい吹き出す。
「はー。頭のいい人って、何でも卒なくこなすんだなあ。文武両道はあたしには無理だぁ」
これは、一日文化祭を回ってみての感想。模擬店にしても展示にしても、すごく凝ってる。しかも、学年が上がるほど力の入れようがすごい。進学校だから、3年生なんて受験を控えてギスギスしている人もいるだろうに。
安原さんもそうだったが、本当に頭がいい人は余裕があるんだろうか。

そう思っての言葉だったが、
「そうでもないよ。大事なことは上手くいかない」
と、前を向いたままそっけない言葉だ。しまった、気を悪くしたかも。



チュロスを食べていたこともあり、しばらく黙って歩いていると、いつの間にか中庭に戻ってきていた。
「ちょっと座ろうか」と勧められたので、今日最初に座ったベンチに腰掛ける。
「あの、さっきはごめんなさい」
ベンチに座ってからも勇人さんは黙ったままだったので、あたしから切り出す。
「ん? なにが」
「頭のいい人は何でも出来るって、簡単に言ってしまって」
「いや、気にしないで。ホントにすごい奴もいるから。この学校はそういう奴が多いし」
そう言って、最初と変わらない印象で微笑む。
「あの、勇人さんの弟さんも高校生なんですか?」
話題を変えたくて、最初に話していたことを思い出す。
「高校生だよ」
「同じ学校?」
「いや、弟は違う高校。あいつは単なるサッカー馬鹿だから」

――単なる学者馬鹿だから。
不意に彼の言葉が被る。
あの時は、本人だと思っていた。だから何も言わなかった。続きを無理に聞き出そうともしなかった。
もう、会えないのに――……。

「谷山さん?」
黙ってしまったあたしに、勇人さんが心配そうに声を掛ける。
「あ、え。すみません、ちょっとぼーっとしちゃって」
慌てて謝る。
「疲れたかな」
フルフルとあたしは首を横に振る。
勇人さんは言わない。だからこそ、ちゃんと聞かなくちゃ。
「勇人さん。なんであたしを誘ってくれたんですか」
「写真で、気になって」
用意されたような返事。
「それだけですか?」
体をずらして向き合うようにし、ちゃんと目を見る。
返事はない。

でも、待つ。

「…谷山さんはさ」
言いにくそうに、でも、肯定して欲しそうな雰囲気で。
「谷山さんは、幽霊って信じる……?」
ああ、やっぱり。
やっぱりって気持ちと、ちょっとガッカリしている自分がいる。たとえ想ってもらっても、受け止める気もないくせに。慣れない扱いに舞い上がったり、目の前の人を見ずに彼を想ったり。いい加減な自分にもガッカリだ。

「ごめん、変なこと言った!」
黙っているあたしを否定と取ったのか、勇人さんはなかったことにするように少し大きめの声で早口に言う。
違う。そうじゃない。
あたしこそ、ちゃんと言わなきゃ。

「あたし、渋谷にある心霊調査事務所でバイトしてるんです」
「うん」
やっぱ知ってるんだ、あたしのバイトのこと。
「うちのボスは、人間の思考や情報なんて単なる電気信号だって言うんです」
「強引だなぁ」
ちょっと苦笑いの声。
「いわゆる拝み屋とは違うらしくて。ゴーストハンターと言うそうです。既知の科学では説明できない『何か』があるから、科学にするために、その『何か』を調べる。すごくざっくり言えば、そういうことを仕事にしてます」
あたしもちょっと笑いつつ補足。
「でも、調査に行くと計測器に映らない現象とかに出くわす。科学では説明出来ないことが、体験的に積み重なる。でもそれは、あたしという人を介した情報であって、ただの気のせいかもしれないんです。」
返事はないが、真剣に聞いてくれる気配に言葉を続ける。
「だから、あたしは幽霊を信じるとか信じないとかより、生きてる自分たちが亡くなった人達を無かったことにしないで、ちゃんと悲しいね、辛かったねって、そう思いたいだけなんです」
「そうだね」
ふっと息を吐き出しながら、勇人さんが頷く。
「それに、大切な人が幽霊になってまでいつまでも漂って欲しくないよ。やっぱり」
「そうだね」

「…だから、会えない方がいいんだよ」
最後は、自分に向けての言葉だ。
「そうだね」と勇人さんは繰り返した。



しばらくの間、あたしたちは前を向いてただ座っていたが、何か区切りがついたのか、
「今日は本当に、ありがとう」
と勇人さんが立ち上がってそう言う。
「こちらこそ、色々奢ってもらってありがとうございました。楽しかったです」
あたしも立ち上がり、勇人さんを見上げる。
彼とは――ジーンとは、背丈も顔も全然違う。何より生きて、あたしの前にいる。
「でも。人の気持ちを慌てさせる、こういう呼び出しはもうやめて下さいね。」
最後にちょっと意地悪を言う。
「それは……」
言いかけて、勇人さんはハッとした顔になる。
しばらく考えて、
「そうだったな、ごめん。ちゃんと最初から言えば良かった」
と頭を下げる。
「やだ、頭まで下げないでください。ちょっと意地悪言っただけですから」
顔を上げた勇人さんは、やっぱり最後まで困った笑顔だ。チュロスを渡してくれた時の、ぱっと明るい笑顔はあたしの前では見せないつもりらしい。
「それじゃ、そろそろ文化祭も終わりだし、俺も仕事してくるよ」
「はい、あたしも帰ります」

正門まで送ってくれた勇人さんに手を振り、駅まで歩き出したあたしにかすかに聞こえてきた最後の声。


「……谷山さんが写ってる写真があるのは、本当なんだけどね」


え、と振り返った先に、もう勇人先輩の姿はなかった。