小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「仮面の町」 第二話

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
第二話

事故を目撃したことで直ぐに警察に知らせなければと辺りを見渡したが、公衆電話が見当たらなかった。駅まで行かないといけないと考えて来た道を戻り駆け足で公衆電話を探した。駅にあったボックスに入ってお金が要らない110番を回して事情を伝えた。
程なく救急車とパトカーがやってきて事故のあった交差点で道路隅に放り出されていた若者二人を収容し、周りの様子を調べていた。
電話を掛けた天木は事情徴収を受け衝突をした車について聞かれた。現場には立ち去った後があり、手がかりが見つけられなかったからである。

「車種とか覚えているかい?」ベテランの警察官が尋ねてきた。
「多分クラウンです。黒で二人乗っていました。運転手と後部座席に1人です」
「そうか。黒いクラウンか・・・よくある車種だなあ。他に何か覚えてないかい?」
「運転していた人が確か後部座席の人に、社長と呼びかけていました」
「社長か・・・それも良くあるな。体付きとかナンバーなんかは覚えてないよなあ?」
「ナンバーはわかりません。あの時車の人が跳ねたバイクの若者を何とかすると思ってしまいましたから、そのうボクは電話だけ急いでかけないとって駅まで走りましたから」
「そうか・・・救急隊の話だと原付の二人はダメだろうって話だよ。そうすると死亡事故で逃げた車の運転者は業務上過失致死とひき逃げの重罪になるからなんとしても探し出さないといけなくなる」
「そうでしたか・・・ボクが現場であの人達に話しを聞いていたらよかったんですね・・・すみません役に立たずで」
「何を言っているんだ。君は通報してくれたんだよ。誰でも出来ることじゃないから気を落としちゃダメだよ。犯人は警察がきっと探し当てるから心配しないで今日は帰りなさい」
「はい、絶対にお願いします」
「私は山崎です。君の勤務先聞かせてくれるかい?」
「いいですよ。花井建設です」

しばらくして警察から届いた天木への返事は信じられないものだった。

一枚の書面が封筒に入って花井建設の事務所に届いていた。専務の千恵子が弘一に手渡した。

「さっき警察の人が来てあなたにこれを渡して欲しいと頼んで帰ったの。何かしたの?」
「いいえ、違うんです。事故を目撃したので事情聴取を受けたんです。結果が知りたいと言っておきましたので届いたんだと思います」
「そう、いつのこと?」
「先月の初めです」
「ふ~ん、そういうことは私か上司に話して欲しいわ。従業員の日常も会社としては知っておく必要があるのよ。特に未成年のあなたはね。親御さんへの責任もありますから。解りましたか?」
「はい、ありがとうございます。今後気をつけます」
「そうしてね。じゃあこれ、渡しましたから」

仕事が終わって家に帰り封筒を開いて書面を読んだ。
簡単な手書きの文章でそれは書かれてあった。

『天木様、先日は事故の検分に立ち会っていただき感謝申し上げます。調査いたしましたが、事故を起こした車は現在も発見できません。捜査は継続中ですが今後はお任せください。』
それだけだった。

あんな大きな事故を起こしているのに簡単すぎると弘一は思った。ひき逃げ犯罪は絶対に捕まると聞かされていたから、判明したとの報告だと思っていたのにがっかりした。自分は警察でもないし、まして被害者とは何の関係もない人間だったからこれ以上関心を持っても仕方のないことだとこのときは諦めていた。
日曜日に約束していた優子がアパートに遊びにやって来た。

「弘一!居る?わたし・・・」
「今開けるから、待ってて」
「何してたの?鍵なんかかけて」
「ゴメン・・・起きたところだったから」
「ふ~ん、わたしが来ることになっていたのに、寝坊したって訳?」
「そうしておいて」
「なんか気になる言い方をするのね・・・まあいいけど。どうする?映画でも見に行く?」
「映画・・・か、なんだかその気分じゃないから違うことにしようよ」
「違うこと?まさか・・・変なこと考えてない」
「変なことって・・・なに?」
「いいわよ、言わせるの!」
「解らないから聞いたのに、何怒っているの?」
「コーヒーでも入れて頂戴!それから考えるから」
「解ったよ。じゃあ座って待ってて」
台所に向かった雄介と入れ替わるようにしてベッドを背もたれにしてコタツに座った。すっかり寒くなっていた師走であった。

何気なく周りに目をやっていた優子は警察署の名前が入っている封筒を見つけて手に取った。

「弘一、警察から何の手紙?」
「ああ、それか・・・そっちへ行ってから話すよ」
「見てもいい?」
「いいよ」

「事故を目撃したんだ?」
「言ってなかったっけ?初めて優子さんと逢った日の帰りに目撃したんだ。原付バイクに乗った若い二人が車にはねられて死亡した事故なんだよ。目撃者はボクだけだったので色々と聞かれたけど、警察に電話して帰ってきたら逃げていなくなっていたんだよ、車がね。
それで犯人が解ったら教えて欲しいと警察官に伝えて待っていたら・・・その返事なんだよ。失礼しちゃうよ」
「そうね・・・解りませんじゃダメよね」
「まったくその通りなんだ。仮にも二人死んでいる。それにね信号無視したのはバイクじゃなくて車の方だったんだよ。そのことも言ったのに解りません、じゃ納得できないよ」
「言い方悪いけどあなただけの目撃情報だし・・・捜査が進まないんじゃないのかしらね」
「それなら仕方ないけど、黒いクラウンなんてこの市内でそんなに走っているかなあ・・・一台ずつ調べたら絶対に解るって思うけど」
「黒いクラウンだったの?ナンバーは?」
「ナンバーは覚えてないよ。運転手らしい男性と、社長と呼ばれた男性の二人が乗っていたんだ。そのことも話したよ」
「社長・・・ね。黒のクラウン・・・運転手・・・幾つぐらいの人?運転手って」
「暗かったからね、見たところ父親より少し上ぐらいに感じたから・・・50過ぎじゃないかなあ」
「50過ぎで運転手、クラウンに乗っている社長・・・」
「心当たりでもあるのかい?」
「普通にある会社の社長と運転手って感じだけど、何か引っかかるなあ」
「どうして?普通にあるって言ったじゃない」
「違うの。組み合わせじゃないの。ひき逃げは犯罪だから捜査は迅速かつ強力に推し進めるのが基本。以前にね、わたしが小学校の頃に父親の会社で社員が事故を起こして逃げたの。幸い死亡事故じゃなかったけどお酒飲んで運転していたから怖くなったみたい。
夜中だし目撃者も居なかったのに、数日で会社に来て逮捕されたんだよ。それぐらい捜査は完璧だったの」
「そうなの。ちょっとした破片から車の車種と年代を割り出せるって聞くしね・・・そう考えると、ますます不可解に思えてくる」
「弘一には縁もゆかりもない被害者だろうけど、それじゃ浮かばれないね。遺族の方も嘆いておられるだろうね・・・」
「優子さん、ボクやっぱり納得できないから、警察に行って話を聞いてくる」
「じゃあ、一緒に着いて行ってあげるよ」
「本当?ありがとう。今日は日曜日だから取り合ってくれないかも知れないから明日の帰りにでも立ち寄ろうかな」
「そうね、じゃあそうしましょう」
「ところで今日は何しようか?」