小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

D.o.A. ep.17~33

INDEX|65ページ/66ページ|

次のページ前のページ
 



兄さん、と、呼びかけたのか、今。
唖然とする。
なんらかの縁があることを悟ってはいた。
二度目に彼と会ったとき、手配書を広げて示し、この男と本当に会ったのかと。
今浮かべているものに似た顔で、問うてきたではないか。
そして、彼とその男にどんな因縁があるのか、訊きたくて、でも訊くのを惰ったのもライルだった。
「俺、なんて、いつから自分のことそんなふうに云うようになったの?なんかすごく違和感がある」
くすくすと笑いながら返す言葉には、なんとなく親しげな響きがふくまれている。
ならば、人違いではないのか。ティルと、ラゾー村虐殺の犯人は、間違いなく兄弟であるのか。
「必死で捜したのに、少しも手がかりはなかった。…あなたは今、どこにいる?」
すがるように、ティルは、もう半歩前に出た。

「 “クォード帝国”――― ロノアに戦争ふっかけた所だよ」
「な、…そんな…、馬鹿な」
「つまり、今の僕と、ロノアの狗のおまえは、名実ともに敵であるというワケだ」

途端に、空気が凍りつく。
レンネルバルトの手に、あの日あつかっていた鞭があった。
「―――ヨルムンガンド」
レンネルバルトはちいさくつぶやき、鞭をしならせ、その矛先を何の躊躇もなく、弟へむけた。
だが、彼は抵抗らしいものを見せないどころか、その場から動こうとすらしない。完全に戦意がない。
ライルはとっさに彼を横へ突き飛ばし、おのれの剣を掲げる。すると刃に、ヘビのようにからみついた。
前のように、ぞくりと尋常でない気味の悪さがあったが、何とか耐えて、柄に握力をこめる。
「また、前のように半殺しになりたいのかな」
「馬鹿野郎、なめるなッ!…今度はお前の番だ!」
鞭と、それの絡んだ剣の引き合いになる。細い体のくせに、今にも引きずられそうになった。
絡んだそれは、いきなり生き物のようにぬるりと動き、ライルの剣からほどかれる。
突然力の均衡がくずれて、引かれまいとしていた彼はのけぞりかけた。
レンネルバルトの手に、またたく間に戻ったヘビが、ふたたびライルに振るわれる。
しかし、以前とはちがった。すぐに体勢を立て直し、軌道を読みきって跳躍する。ライルのそばにあった椅子が、真っ二つになった。
鞭が手元に戻るまでの一瞬を最大限に利用し、彼は一気に間合いをつめる。鞭など、接近戦では無用の長物だ。
だが、彼の勘が、背後に冷たいものを感じさせる。
視界の端に、ヘビが、ありえない曲線を描いて、ライルの背中に襲いかかろうとしていたのをとらえた。
回避など間に合わない。瞬時にそう判断し、体の回転を利用してその先を斬りとばした。
そのとき、ギン、と皮ではありえない金属音が鳴りひびく。
そしてそのまま、鞭の先はレンネルバルトの手へと、生き物のようにふたたび戻っていった。
ぱしりと小気味のよい音を立てて受け止めた彼は、そのまま後ろ跳びにライルとの間合いをとる。
「……」
ライルは無言で、冷たい目をその武具へと向けた。
かつてあの武具に負わされた胸の傷を思いかえす。
そして、先程はじいた手応えは、金属のものであった。
ならばあれは、見かけのとおりの鞭ではないのだ。
鞭のようにしなり、同時に鋼の刃のようにするどい切れ味を持つ、特殊な材質の奇剣であるのだろう。
聞いたことも見たこともないが、こうして確かめたからにはあると断ずるしかない。

「なるほど、口先だけでもないらしい。前とは別人だ、こわいこわい」
「…わかったら、ここで死んでいけ」
「いや悪いけど、そのつもりはないんだよ。もう、ここまでだ」
据わった目で切っ先を向けるライルに、猫のような目を細めて、彼は奇剣をくるくると巻き取りだす。
行動のなにもかもが癇に障った。なにをへらへらとしているのだろう。
そっちから仕掛けてきたかと思えば、もうやる気はないとのたまう。
そうしている間にレンネルバルトは、奇剣をかたづけて無防備になっていた。
どこかの血管が切れそうになる。怒りで我を失いそうになるのを、懸命にこらえた。

「ロノア王国は降伏を宣言した。これから、いなくなった君を、クォード帝国は血眼になって捜す。
見つかればいわずもがな。僕は、それを非常におもしろくない展開だと考える。…よって、僕は、君らを逃がしてやることにした」

レンネルバルトは、おどけた調子で、さも恩着せがましく言い放った。
「ロノアが…降伏…?」
「意外な展開でもないでしょ。あの怪物が現れたとき、すでに勝敗は決した。
これ以上ふんばると、本当にロノア軍が全滅するからね。懸命な判断をしたよ、武成王は」
「…ソードが? ソードが、屈しただと…!」

レンネルバルトは不意に右手のひらを上に向け、光の玉を浮かび上がらせる。
「じゃ、僕のせっかくの好意を無駄にしないように、がんばって逃げてね」
「兄さん…!」
この場から去るであろうということを感じて、ティルが目の色を変えて駆け寄る。
だが、追いすがるより速く、レンネルバルトはその詠唱を口にした。

「―――光あれ(ライティング)!」







作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har