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D.o.A. ep.17~33

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数日後の夕刻。
総司令部の置かれたサーブルの町を、強靭なる脚力で地を蹴る馬が駆け抜けていく。
乗り手は、各軍を情報でつなぐ任を負った選りすぐりの騎兵であり、馬は最速の駿馬である。
総司令部は、町長の屋敷を貸してもらっていた。
そこ目がけて、わき目もふらずに茶色の馬を疾走させる。
何事かと、町人は道をあけながらいぶかった。
一瞬見えた騎兵の横顔は、切羽もつまりすぎて、猛獣に追い立てられる草食動物かくやという観があった。

しかし、そこは名手らしく巧みに馬を止めると、すさまじい勢いで総司令部へ転がりこんだ。
当然、礼儀もなにもないその連絡兵の態度に、総司令官ラドフォード元帥や武官らは、いい顔をしない。
しかしその慌てぶりを見るに、よほどの理由だろうと咎めはせず、
「なにかあったか」
と、テーブルをはさんだ向こうの青年兵にたずねる。
ラドフォードの言葉に、彼は思い出したかのように敬礼をすると、
「報告いたします」
「うむ」
うなずくと、連絡兵は二つの封筒を取り出し、
「戦果や被害状況などの詳細はこの中にございます」
そう告げて、うやうやしくラドフォードへと手渡した。
「まずひとつ…第4軍、敵多かれども奮戦し、軍港を守りきったとのことです」
「そうか。よくやったとつたえておけ」
実に満足げに、彼はまなざしをやわらげ、何度もうなずいた。が。
「…もうひとつ」
露骨に表情を暗澹とさせた連絡兵に、ラドフォードは首をかしげる。
連絡兵は、顔を上げると、

「第1軍が昨未明、壊滅にいたったそうであります」
――――その敗報を、もたらしたのだった。

もう一度いえ、と命じる愚鈍さをラドフォードが見せたのも、無理なきことといえただろう。
そして気の動転している連絡兵は、馬鹿正直におなじ言葉をくりかえした。
みるみる、その場にいた軍人たちの顔色が変わってゆき、騒然となる。
「ば、ばかな!!第4軍が勝って、なぜ第1軍が負ける!?」
「きさま、まさか混乱を招くべく遣わされた敵のスパイではあるまいな!」
などと、あわれ連絡兵はスパイの疑惑までかけられて蒼白になった。
そんなざわめく室内の中、ラドフォードは椅子より立ち上がって、ともかくしずまれ、との鶴の一声をあげた。
「貴官はその詳細を述べてくれ」
痛いくらいシインとなった部屋で、不当に責めたてられていた連絡兵はすがりつくような眼差しで一歩、前に出る。

第1軍は総力をもって、敵軍団を撃退せしめんと奮戦していた。
第3軍が大勝利をおさめた以上、遅れをとるわけにいくまいと、総員なみならぬ闘志に燃えていた。
しかしオークの猛攻、体力ともにすさまじく、人数で圧倒するはずの第1軍は、膠着状態におちいる。
そこへ突如現れた何者かが、たった一人でロノア陣営に攻めこみ、オークなど比較するにも値しないような力をふるったという。
それをきっかけに第1軍は総崩れとなり、その間隙を突くように襲いかかったオーク軍勢に暴虐のかぎりを尽くされたのであった。
とはいうものの、後から見た報告書によれば、第1軍は実質、そのたった一人のために壊滅したようなものであった。
まるで物語のような、現実感からの乖離もはなはだしい報告に、一同は唖然となる。
告げている当人でさえ、どこか信じきれぬ面持ちであったのだから、聴いているほうはその比ではない。

「な、なんなのです…そいつは」
驚愕に震える声色で、武官の一人がつぶやく。
「は、正体はわかりませんが、敵軍の一員にはちがいないと思われます。いつの間にか姿を消したそうであります」
オークばかりとおもっていたが、敵はさらにそのような輩を隠し懐いていたのだ。
敵は未知であるということを忘れていたわけではないが、まさかここに来てそんな者が出現しようとは。
司令官らしく、何が起ころうと冷静沈着であろうと努めていたラドフォードだったが、さすがに血相を変えずにはおれなかった。
「…それがどのような姿をしていたかは、わかっておるのか」
「白い甲冑姿の、貌を完全におおった“鬼兜”…そう聞き及んでおります」
「オニカブト…とは、なんなのです?」
「その…長い2本の角がついた兜であったようで、第1軍がそう呼称していたのであります」
鬼とは、東洋の龍紫に伝わる、角をはやしたおそろしい化け物の呼称である。
かたや、顔すらもわからぬ、異国からの侵略者。
その一致は、戦場でのイメージをともなって、彼らの不安をよりかきたてた。

いっそ虚構じみた「鬼兜」の脅威は、終始、総司令官ラドフォード元帥以下武官らの頭を占拠することとなった。
そして、彼らはこれから先、それ以上の恐怖が待ちかまえている可能性も、考えねばならないのであった。


作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har