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フォーゲットミーナット ブルー 【第一話】

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【第一話】

花粉が多く飛びます……と、天気予報士が昨晩のニュースで伝えていたことを思い出す。
今日はポカポカと、少し暑いくらいの陽気だ。
四月初旬。私は並木道をぼんやりと散歩していた。
高校を卒業してから、定職にはつかず、バイトをしては辞めて、バイトしては辞めて……を繰り返していた。
両親からは「医療事務の資格でも取ったらどうだ」とここ最近、勧められている。
正直、面倒だけど、いろいろとうるさい両親を黙らせるには、ここは資格修得しておくべきか…と思っている。
「はぁ……」
声に出して溜息を吐きだす。虚無感、将来への不安、いつになったらこんなマイナス感情を消すことができるんだろう。私はポケットのなかに手を突っ込んで、ピルケースを取りだした。情緒不安定なときに味方をしてくれる、マイナートランキライザーを水無しで飲み込む。不安で眠れないときがあると医者に訴えたら、頓服を処方してくれたのだ。
「さて、どうしようかな」
ポツリと呟く。今日はバイトが休みなのだ。家にいても時間を持て余す。とりあえず外に出たのはいいけれど、行く当てもない。とりあえず、ウィンドウショッピングでもして、カフェでお茶して、のんびり家に戻ろうか………。
並木道を抜けると駅にたどり着く。その周辺は、ショッピングモールやブティック、カフェ、雑貨屋なんかが建ち並ぶ。時間を潰すにはもってこいだ。
(あ、シャンプーきれてたんだっけ)
ちょうどドラッグストアを通りかかって、私は足を止めた。最近のドラッグストアは薬よりも化粧品やお菓子のほうが充実している。良い具合にシャンプー激安! と書かれたポップを見つけ、私はかごに並べられていたシャンプーを取った。
髪を洗えればそれでいい。特にこだわりはない。
私はレジへ足を進めた。すると、一人の女性が店員と話し込んでいるのが見えた。仕方なく隣のレジへ行こうとしたけど店員がいない。私は順番がくるまで待つことにした。
「あいにくテスターは置いてなくて…」
「じゃあ、いまここで試し塗りはできないの?」
「そうですね、商品を購入していただかないと、パッケージを開けることはできません」「ねぇ、どれが一番潤うの?」
「えーと、そうですね……」
店員はやっかいな客がきた……と言わんばかりに困った表情をしている。
私はちらっとレジの台に目をやった。数本のリップクリームが並べられていた。
これは時間がかかりそうだ。リップクリームなんて、なんだっていいのに。
「もういい。全部買うわ」
「え…」
思わず声を出してしまった。一気に何本ものリップクリーム買うなんて、そんな人見たことなかったから。私の声に女性が振り返った。
「なに?」
振り返った女性は、ハッと息を飲むほど美しかった。心臓がドキン! と音を立てるのが分かった。数秒、私は女性に見とれ、我に返った。
「あ、いや、その……スティックタイプのものよりも、チューブタイプのクリームのほうが潤いますよ……」
私はあわてて目を逸らし、しどろもどろに言った。なぜか恥ずかしいという感情が強くなって、鼻にうっすらと汗が滲むのが分かった。
「そうなの? ありがとう」
女性は嬉しそうにニコッと笑うと、これにするわ……と言ってチューブタイプのリップクリームを店員に差し出した。
ドキン……ドキン……。
女性の綺麗な長い髪をみつめる。私はこの瞬間から、彼女に恋をしてしまったのかもしれない。
いままで一目ぼれなんてしたことなんてないのに。恋愛には疎いのに。しかも彼女は異性ではない……。でも、そんな複雑な気持ちなんか関係なく、私は彼女のとりこになってしまっていた。
………それが、人生の転機。川辺結衣との出会いだった。