どうする?
二月二十九日。晴れている。それだけで嬉しかった。
会社帰り、お気に入りの洋菓子店で、ケーキを受け取って部屋に帰った。
小さめのボトルのお子様用シャンパンで乾杯。
(乾杯ってひとりでするんだっけ)
ケーキのキャンドルを灯し、部屋の明かりを消し、カーテンを開けた。
ガラス窓に映るグラスを持った節子とグラスを合わせた。
「乾杯。おめでとう節子」
ケーキのキャンドルを吹き消し、部屋の明かりをつけた。
悦子は特大のホールケーキを一人で食べ始めながら、ぼそぼそと歌い始めた。
「ハッピバースデー トゥ ミー ハッピバースデー トゥ ミー ハッピバースデー
可愛い節子ちゃーん・・・はあ、どうせ ハッピバースデー 可哀想な節子ちゃーん
ハッピバースデー トゥ ミー 」
その時、節子の部屋のクローゼットのドアが開いた。
パンパンパパパァーン!クラッカーのけたたましい音とともに現れたピエロ。
「せっちーん、おめでとう!誕生日おめでとう!」
そのへんてこなメイクの顔は、どこかでお会いしましたか?状態の節子の頬にケーキの
生クリームを指先でベトリ。「あっ。・・・」塗られた生クリームをピエロがペロリ。
玄関から、外へ出て行った。
「え?誰……?」
まるで、季節はずれのサンタクロースのようだ。
「今のは、な・に・?・・・どろぼう!?」
クリームのついた銀色のケーキスプーンをくわえたまま立ちすくみ、頭の中だけ全力疾走で記憶を呼び覚ます。
『せっちーん』・・・その呼び方って・・・。「誰?」
節子の春のおとずれになるのだろうか?と、ハッピーエンドの予感。か!
だが、その前にこんな珍事。
何となく残るピエロの靴跡。
通報する?見逃す?
「ど う す る の よ ー !!」
― 了 ―