掲げた掌、ピアッサー。
キスマークなんてすぐ消えてしまうものじゃだめだ。もっともっと強靱で、形として残り、私の体の中に沈み込むようなものが良い。
印が欲しくて、生きてきて21年、まだピアスを開けたことがない。この人ならと思うその人にマーキングをしてもらう為に、耳は真っ白なままだ。傷一つ付けたことがない。
「お願いします、どうぞ」
恭しく掲げた未開封のピアッサーを、まだ手にしてくれる人はいない。今の彼も、そうだ。人は口々にこう呟く。
そんな怖いこと、出来ない。
そんな重いこと、出来ない。
ごめんね。
わかってる、そうだね、重いよね。
そう、微笑み返すしか出来ない。強要することではないし、この行為はただ単に私の自己満足でしかないだろうし、自慰でしかないのだろうから。
それでも私は所有されたい。
自分のものなんだと、示されたい。
肩を並べて二人でピアスを選びたい。
これがいいだろうと差し出されたものを、私は嬉々として、その耳に刺すだろう。深く深く食い込ませて、肌を貫通させるだろう。
誰かの所有物でありたい。
この形でしか満足しきれないのは、おかしいだろうか。重苦しい愛の方が安心する。
「どうぞ、お願いします」
この人ならと決めた人に、今日も願い続ける。
この手に恭しく、ピアッサーを掲げて。
マーキング、してください。
作品名:掲げた掌、ピアッサー。 作家名:もりもと