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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「初体験・ダイエー編」 第二話

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第二話


夕方にホテルを出て佳恵を家まで送っていった。久しぶりに雄介の顔を見た母親の優美子はすっかり逞しく変わっていた事に驚かされて
「雄介さん!まあ・・・素敵になって」そう褒めてくれた。家に上がるように薦められたが断って、家に帰ることにした。ちょっと恥ずかしく感じたからだ。
守口市駅まで帰ってきていつもの喫茶店に入った。名前は「魔王」と言って変わっているが至って普通の喫茶店だった。
経営者は50代の夫婦であったが長男の雅人が今は調理師学校も出て後を継いでいた。双子の妹も店を高校生の頃から手伝っていた。一卵性だったので見分けがつかなかった・・・雄介は見分ける方法を一つ知っていた。それは姉の胸を見ると解った。わずかだが左右対称ではなく右側が少し大きいのだ。それ以外のところで遠目に二人を見分ける事は親兄弟以外には出来ないであろう。

「雄介くん、いらっしゃい。あれ、今日はバイトじゃなくデートの帰りかい?」
マスターの雅人が聞いてきた。
「解るの?」
「そりゃ高校生のときから見ているからね・・・雰囲気で解るんだよ」
「そうですか・・・さすが客商売ですね。感心です」
「雄介くんだって、ちゃんと妹を見分けるだろう?感心しているんだよ」
「ああ、そうですか・・・見れば解りますよ」
「女性の事は良く解るように出来ているんだね、目と言うか嗅覚と言うか・・・アハハ・・・」
「嫌な言い方ですね・・・遊び人に聞こえますよマスター」
「違うみたいじゃないか?このう・・・」
「参ったな・・・そういえば今日は信ちゃんも朋ちゃんもいませんね?」
マスターの妹は姉が信子、妹が朋子と言った。

「そうなんだよ。二人で京都の婆ちゃんの家に行ってるんだよ。明日月曜日だけど学校が休みだから泊まって来ると言ってた」
「マスターのお母さんの実家ですね?」
「そうだよ。上加茂にあるんだ」
「学校の直ぐ傍ですね・・・へえ、偶然だ」
「雄介くん、そういえば産大(京都産業大学)だったね。学校の近くだよ」
「そうだったんだ。いつか会うかもしれないね」
「どうかな・・・それよりバイトは楽しいかい?どこの売り場に居るの?」
「ええ、衣料品です。主に下着類の補充したり、後はレジ応援ですね」
「下着?恥ずかしくないかい?」
「男物ですよ」
「そうか・・・そうだな」
「いやですね、マスター・・・婦人物なんか触らせてくれませんよ」
「なんか触りたいように聞こえるぞ」
「誤解ですよ、俺だってそれは恥ずかしいから嫌ですよ頼まれても」
「店は女性が殆どだろう?やりにくくないかい?」
「結構みんな良くしてくれますよ。休憩室なんかで奢ってくれますから」
「雄介くんならもてるだろうね・・・気をつけないといけないよ。彼女いるんだろう?」
「はい、ご心配無用です」
「そうかな・・・心配はしないけど、羨ましいよ」
「そうですか、田舎の子ばかりですよ」
「純真でいいじゃないか」
「そうですか・・・」
「いい子がいたら紹介してくれよ。俺もそろそろ彼女欲しくなってきたからな」
「いいですよ!探しておきます」
「おう、頼むわ。そうだ、おれ車買ったんだ。カペラ、知ってるかい?」
「マツダのロータリーですね」
「良く知ってるね。そうだよ。すげえ早いぜ。ドライブしようって誘ってみてくれよ・・・雄介くんと3人でも構わないから」
「本当ですか?俺も今興味あるんですよ、ロータリーは」
「免許持ってたっけ?」
「いえまだですが、申し込みはしています。混んでて12月しかダメだって言われました」
「そうか、少し先になるな。取ったら乗せてやるよ」
「ありがとうございます。楽しみだ・・・是非彼女紹介しますから待っていて下さい」
「そうこなくちゃ・・・今日はコーヒー代奢るから俺が・・・」
「ご馳走になります!」

マスターの彼女探しが始まった。年齢的には22~23ぐらいがいいと思い売り場の女性に誰が独身で幾つなのか聞く事にした。主任をしていた順子に休憩時間を合わせて隣に座り訳を話して聞いた。

「そうなの・・・交際相手をね。幾つの方なの?」
「マスターは確か・・・25です。かっこいいですよ」
「そうなの。私じゃダメよね?」
「結婚されているじゃないですか!冗談を・・・」
「あら!良く知っているのね」
「指輪しているし・・・」
「そうね。冗談だわよもちろん。ちょっと聞いてみるわ待ってて・・・雄介さんは彼女いるの?」
「はい、高校一年からずっと付き合っていますよ」
「へえ~長いのね。感心したわ」
「そうですか?普通ですけど」
「みんな直ぐ付き合っては別れてしまうから・・・3年も付き合っているなんて長いなあって思ったの」
「そんなものですか?皆さんって」
「社会人になると結婚とか考えるからダメになっちゃうのかしらね・・・純粋に好きな思いだけで続けられないって考えるのよ」
「違うと思いますよ。本当に好きって思えないからダメになるんじゃないんでしょうか?」
「本当に好き?そう思うから付き合うんでしょ?」
「限らないと思いますよ。その場の雰囲気とかで交際に踏み切ったりするときがありますから」
「それは男性側でしょ?」
「限りませんよ」
「そうかしら・・・女は好きにならないとお付き合いなんて出来ないけどねえ」
「違う人もいますよ」
「経験が多いのね雄介さんは・・・もっと聞きたいけど、時間ね。見つかったら連絡するから待ってて・・・」
「はい、ありがとうございます。お願いしますね」

バイトが終わって帰ろうとしたときに地下にあったレコード店のママさんとすれ違った。
「井上さん、今帰りなの?」
「はい、そうです。ママさん買い物ですか?」
「違うの。今から梅田に行くの」
「そうでしたか。じゃあ駅まで一緒に行きましょう」
「もう帰るのね?喜んで・・・」
「ちょっと涼しくなってきましたね?」
「そうなの、夜は半袖では寒いからね。井上さんは家はどこだったかしら?」
「守口です」
「そう、近いわね」
「ママさんの住まいは近くですか?」
「前は近かったんだけど、今は実家にいるから箕面なの」
「遠いですね!毎日通勤されているんですか?」
「開店は10時だから楽なんだけど、帰りは辛いわね」
「そうでしょうね・・・8時に閉店ですから、9時回りますね」
「うんそうなの。仕方ないけど近くで住む所探すのも大変だしね」
「どうして箕面になってしまったんですか?」
「・・・離婚したの」
「離婚?」
「そう、お店だけ貰ったの」
「じゃあ子供さんは箕面ですか?」
「子供はいないから、両親と一緒よ」
「そうでしたか・・・大変ですね。頑張ってください。手伝う事があったらなんでも言ってくださいね」
「優しいのね、ありがとう。ねえ?ギター欲しいって言ってたわよね?」
「はい!ショーケースの中の5万円のやつです」
「井上さんが買ってくれるんだった、毎月1万円ずつ5回払いでも構わないわよ」
「本当ですか!買います!直ぐ買います」
「嬉しそうね、そういう人に使ってもらいたいわ。じゃあ、明日店に来て・・・」
「はい、絶対に伺います」

客と女主人それだけの関係に思えた雄介と小枝子は10歳の年の差を越えて深い関係になってゆく・・・