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ふざけんなぁ!! 9(続いてます)

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歌を忘れたカナリアは? 5




(ね~すぅ~ごぉ~しぃ~たぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁん!! みぃんなみぃんな、クーラーが悪いんだぁぁぁぁぁ!!)


快適な正臣のマンションを飛び出し、食料の買い出しをしてから帰宅すれば、もう16時5分前。
帝人が半泣きで両手にあわあわビニール袋を提げ、マンションのエントランスを潜ると、珍しく管理人室に人がいた。
五十嵐のお爺ちゃんだ。

「あれ、帝人ちゃん、ベソかいてどうしたの?」

気温的に一番暑かった時間帯を避け、今から草むしりに出かけるらしい。
下着の白シャツ一枚にベージュ色した作業ズボン、颯爽と麦藁帽子を被って首にタオルを装着し、長靴に足を突っ込むその姿は、70代前半という年齢も合い、帝人の実家にいる祖父を髣髴させる。
帝人は静雄が迷惑かけた時の保身の為、できるだけ同じマンションに住む人への挨拶は欠かさないよう心がけているが、この管理人さんは別だ。本気で懐いている。

「いえ、ちょっと目に砂が入っただけです。こんにちは。外掃除ご苦労様です♪」

何時ものように明るく爽やかに、元気良く頭を下げると、カウンターの小窓から伸びてきた腕が、わしわしっと頭を撫でてくれた。

「偉いねぇ。まだ小さいのに家事まで頑張って。親御さんも、早く迎えに来てくれるといいねぇ」
「……あの、私……、前にも言ったけど、……別に、捨てられた訳じゃなくって……」
「うんうん、家庭には、色んな事情があるからねぇ。でも、施設よりマシとは言え、よりによって【平和島静雄】なんかに預けるなんて、よっぽどご両親も困ってたんだねぇ。でも、親を恨んじゃいけない、いけないよ……」

まるで自分自身に納得させるように呟いた後、首にかけたタオルでそっと目尻の涙を拭う。
相変わらず、彼は帝人を『親から捨てられた可哀想な子』だと信じきっている。
(もう、何処の誰? 五十嵐さんに変な事吹き込んだ人は!!)

確かに静雄は力加減が利かないし、怒りの沸点も低く、外見も金髪とチャラいしチンピラによく絡まれ喧嘩もする。
でも、帝人にとっては優しくて大切な人なのに。

正直、怯え混じりのこの言い草は面白くないが、怒りの矛先が五十嵐さんに向く事はない。
実は、彼はとても騙されやすくて。
マンションに住む暇なおばちゃん連中にからかわれ、勘違いの種を植え付けられ、大きく笑われ恥をかいた姿を馬鹿にされ、遊ばれている姿をまま見ているのだ。

今回も多分、この勘違いが何時か静雄にバレ、怒り狂った彼にフルボッコされる哀れな姿を嘲笑おうと期待する、心根の悪い誰かの悪戯だろう。
こんな純朴で良い人を、己の楽しみで罠に嵌めるなんて……、許せない。


「虐待を受けたら、直ぐにおじさんに言うんだよ。警察呼んであげるから。……あ、美味しい飴があるよ。帝人ちゃん見てると、ついついおじさん、東北にいる孫を思い出してねぇ……」

にこにこと差し出された棒付の丸い、いちごキャンディを素直に口に咥えた時、黒い猫のマークでお馴染みの宅配トラックが、エントランス前に横付けされた。
大きなトラックから台車へと降ろされた荷物は三つ。
お兄さんがゴロゴロと荷物を引きつつ、差し出した伝票を受け取り一読した後、管理人さんは困ったように小首を傾げた。

「……平和島さん家のが、一個あるけど……、どうしたもんかねぇ……」
帝人が手元のピンクの紙を覗き込めば、【平和島幽】宛て。
送り主は達筆過ぎて読み取れないが、芸能プロダクションっぽい。
生憎、自分は【羽島幽平】が所属する事務所名を知らない。けれど、実家の住所を知っているのなら、ほぼ間違いないだろう。

一方、管理人さんも幽が大怪我を負い、行方不明になっているという、連日の凄まじいテレビ報道を見ていたようだ。
このマンションの外で24時間張っている記者のお陰で、静雄の機嫌が超悪いのは周知の事実だし、しかも【池袋最強】と呼ばれる彼に対する禁止事項の一項目目は、『絶対、静雄に羽島幽平の話をしてはいけない』だ。
過去、このタブーを犯した為、マンションの真ん前で、景気良く折られた街灯を武器にフルボッコされた雑誌記者がいたらしく、その暴行を目の当たりにした五十嵐さんは、本気で怖がっている。


「……勝手に弟さんの荷物を預かっちゃったら、平和島さん、帝人ちゃんを怒らないかねぇ?……」
「うん、大丈夫ですよ。静雄さんはとっても優しいし♪」
「おじさん心配だなぁ……、でも、おじさんもねぇ、平和島さんの事……とっても怖くてねぇ……。管理人室では、絶対預かりたくないし。……どうしようねぇ……、帝人ちゃんの身も心配だし、……いっそ、黒猫さんに持って返って貰おうかねぇ。こんな物騒な荷物、知らなかった事にして……」

(おいおいおいおい、こら、じじぃ~~~!!)

静雄め。
こんなか弱そうなお爺さんの目の前で、貴様一体何しやがった!!
五十嵐さんの怯え具合を見て、黒猫の配達お兄さんも、そそくさと荷物を置き去りにして、台車だけを持って帰ろうとしてるし。

「ちょっとあんた!! どさくさに紛れて何してるの!!」
「ぼ……、僕も、まだ配達がありますんで!!」
「平和島さんの荷物、受け取らないから持ってって!!」
「困ります!!うちの宅配センター、【自動喧嘩人形】に殴りこみかけられたら、崩壊しますよ。そしたら責任取ってくれるんですか!!」

大人の男の、本気な怒鳴りあいは怖い。
殴り合いに発展し、大騒動になるのは勘弁なので、帝人は慌てて買い物袋を床に置き、台車の荷物に手をかけた。
「えっと……、黒猫さん、署名は私の苗字でいいですか?」
「は、はい。結構です」
受け取りに名前を書き、みかん箱サイズの2号ダンボールをよいしょっと貰う。

中身は『台本、その他資料』とあるだけあって、両手で持ち上げても、よろけるぐらい結構重い。
きっと、本がぎっしり詰まっているのだろう。

この上に買い物袋二つを乗せて帰るのは……、自分の非力さでは無理だ。
けれど、今話題の幽さん宛の荷物。
盗まれたら嫌なので、ダンボールの荷物をそっと壁の端、観葉植物の影になるよう隠しておく。

「五十嵐さん、少しここに置かせて下さい。買い物の荷物、玄関に置いてから直ぐ取りに来ますから」
「いいよいいよ、おじさんが一緒に持っていってあげるから」
「え?」

折角の好意だけど、それは拙い。
例え管理人さんといえども、幽が実家に帰って来ているって、ばれる危険が一欠けらでもあるのなら、ついて来られる訳にはいかない。

「いいですよ、五十嵐さんだって、今からお仕事あるじゃないですか」
「いいっていいって。ちょっと帝人ちゃんのお手伝いするぐらい、何とも無いし」
「重いから、申し訳ないです」
「なら、余計に帝人ちゃんに持たせるのは可哀想だからね」
「いいです。本当に、ありがとうございまし……」

「……ああ? 其処で何、うちの帝人と揉めてんだ? クソ爺がよぉぉぉぉぉおおおおおおおお?」

地獄の底から響いてくるような、ドスの利いた重低音に、管理人さんのにこやかだった顔がみるみる青に変わる。

「あ、お帰りなさい静雄さん。お仕事は?」
「終わった。トムさんが早引けさせてくれた」