たまにはデレたりするんです!
擬人化が取れて生えてきた尻尾がさっきから緩やかに揺れている。
「何か良いことでもあったのか?」
そう尋ねると、いつもはムスッとした顔をして面倒くさそうに答えるのに、今日はどこか誇らしげに答える。
「春紀の奴がホラーものの映画見たらしくてな。怖くて一人で寝られないから一緒に寝てくれってさ。全く馬鹿な奴だよなぁ。」
仕方ない、と言っているわりにはその口調は嬉しそうだった。
それが俺は気に入らなくて、奈央を抱き寄せる。
「ん?何だよ修羽、そんなにくっつくな。」
グイグイと俺の頭を押しやって引き離そうとする奈央の手を取ってちゅ、とキスをする。
奈央は顔を真っ赤にして俺を睨む。
「お、お前何やってんだよっ!」
じたばたと腕の中で暴れる奈央をより一層強く抱きしめてそれを制すると、奈央の獣耳の方を唇で食んだ。
「奈央の猫耳って可愛いよな。」
「お前にだって狼の耳、生えてんだろーが。」
奈央は唇で耳を食む度にピクピクと反応しながら拗ねたように言う。
「俺も耳生えてるけどこんな触っても気持ち良くねーし。」
「そんなことねーよ。」
奈央は俺から離れると、俺の獣耳に触れた。
「ほら、触ると気持ちいい・・・」
そう言うと、奈央は今まで見たことがないくらいに優しく微笑んで俺の耳を手の平で撫でる。
その表情に見とれていると、はっとしたように奈央は顔を赤くして俺の耳から手を離した。
俺はいたずらっぽく笑うと、もう一度奈央に抱きついた。
「へぇ、奈央って俺の耳好きだったんだ?」
「ばっ!違うっつーの!」
必死に否定する奈央に耳を摺り寄せる。
「別に触ってくれてもいいぜ?奈央だったらいくらでも・・・」
奈央はより一層顔を赤くして俺を引き剥がした。
「バカかよお前。大体、お前の耳そんなに好きじゃねーし!」
「あっそう、残念。」
奈央の性格からそれは嘘であると知っていたためそこまで残念でもなかったのだが、口ではそう言うと、奈央に背を向ける。
「し、修羽!!」
立ち去ろうとする俺の腕を奈央が掴んだ。
「どうした奈央?」
奈央は言葉を探すようにしどろもどろに言葉を続ける。
「えっと、お前擬人化取れてきてるし、俺も取れてきてるし・・・」
「だからどうした?」
「だ、だから修羽も早く寝ないと狼に戻っちまうだろ?」
俺はクス、と笑って奈央の頬を両手で挟みこむと額をコツンと触れ合わせた。
「奈央、何言いたいのか分かんないんだけど?」
うー、と奈央は唸ると、思い切ったように叫ぶ。
「しゅ、修羽も一緒に寝るぞ!春紀には俺が言うから!」
まさかそう誘われるとは知らず一瞬呆けてしまったが、すぐに笑って承諾する。
「ああ、俺も一緒に寝たい。」
そう言って奈央を見ると、奈央はさっき見た時と同じように嬉しそうな顔をして笑った。
「よし、じゃあ春紀にも言ってくるな!」
そう言って奈央は俺に背を向けると、パタパタと駆け出して行った。
「全く・・・奈央は可愛いな。」
本人に言ったら張り倒されること間違いなしの言葉を言うと、俺はその言葉を本人に言った時のことを想像して、怒った顔を思い浮かべると、口元に笑みを浮かべた。
「それにしても、俺にもあんな顔してくれるんだな。」
さっきは春紀に嫉妬したりもしたが、俺にも同じ表情をしてくれたということは今のところ俺と春紀のポジションは五分五分といったところなんだろう。
「ま、奈央が春紀のこと好きだって言っても渡すつもりねーけど。」
春紀に限らず、奈央は誰にも渡さない。
俺がこの家に引き取られてからそれはすでに決まっていることなのだから・・・
作品名:たまにはデレたりするんです! 作家名:にょにょ