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アラームが

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『ハイ、お弁当』

 薄暗いキッチンで途方にくれる
 このスペースが埋まらない

  赤がいいかしら
  黄色もはずせない
  まして緑は必ず

  迷って
  迷って
  迷って
  思いつかない
  どうしたものか

 遠くから
 アラームが追いたてる
 しだいに近づいて
 耳もとでがなりたてる

 5時!

 悩む時間はない
  時計の針は進む
 ブロッコリーの芯を切って
  よくぞ捨てずに取っておいた
 卵を割って
  貴重な黄色
 ニンジンの切れはし刻んで
  味はともかく満点野菜
 グリルをのぞいて
  サケが焦げる寸前
 フライパン揺すって
  ふり向いて冷蔵庫を開ける

 魅力的な匂いが漂い
 横から手が伸びる
 ひと切れふた切れ消えていく
 弁当神話は健在で
 コンビニ弁当の追随を許さない
 
 勘違いと幻想で
 事は円滑に運んでいく
 義務とか
 強制とかの
 面倒な問題ではなく
 運命とか
 絆とかの
 努力の及ばない領域の話でもなく
 本能に直結!
 オリンポスの神々さえも
 暴れる食欲にかないはしない

 遠く離れた私達の間を
 弁当箱が行ったり来たり
 律儀にも

  言葉にならなかった言葉達が
  青ざめた無表情な言葉達が
  底のない闇にすい込まれていく
  現れては消え
  現れては消え
  無秩序に

  時の感覚を失った私達は
  身じろぎもせず
  できず
  背を押すアラームもなく
  埋まるはずのない広大なスペースを前に

  逆光の中で
  言葉が舞う
  目に入るのは
  朝の光と
  できたての陰

『ありがとう』

作品名:アラームが 作家名:wako