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幽霊屋敷の少年は霞んで消えて

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めぞん跡地へ


「ふぅむ。なるほどッ!」
わたしは、少年たちに教えてもらった幽霊屋敷を訪れていた。
うんうん、なるほど確かにッ!ここは幽霊屋敷だッ!
わたしが訪れた建物は、どこかさびしい感じのする二階建てアパートだった。
なるほど、確かにこれなら幽霊か何かが住んでいてもおかしくないけど、あの少年たちの話によると一応人は住んでいるらしい。
わたしはグルリとその周りを周って建物を見回してみる。
「ふぅむ、なるほど外階段か……」
建物の構造は入念にメモを取っておかなければならない。
これは、とても重要なことだ。
面倒なことのように思えても、これが後で大きな意味を持ってくる……あっ、当たり前か。
いつの間にかわたしの足取りはすっかり軽くなっていた。
先ほどまでのマシンガンため息が嘘のようだ。
……っ、とそこでわたしは奇妙な視線を感じた。
そちらに顔を向けてみる……すると女の人が電信柱の陰からコチラを見つめているのがわかった。
その人は、とてもきれいな顔立ちをしていて、それに良く似合う真っ白なワンピースを着ていた。
そんなきれいな人がわたしに何の用だろうか。
さっきから彼女は美しい顔には似合わない、鋭い目をしてじっとわたしを見つめていた……いや、睨まれていると言った方が正しいか。
その様子がどことなく恐ろしい。
もしや、このアパートの住人だろうか。
あまりにも、わたしがジロジロと自分の住処を調べているから、それを咎めているのかもしれない。
わたしは何か弁解の言葉でも言おうかと口を開いたが、わたしがそれを実行するよりも早く、女の人はさっと姿を消してしまった。
「……」
何とも言えない、不完全燃焼感が心の中に残ってモヤモヤする。
結局あの人は何者だったんだろうか。
そして、わたしに何を訴えたかったのだろうか。
……番号聞いとけば良かった。
最後の一つは関係ないにしても、まだまだあの女性に残る謎は多い。
もし、彼女がこのアパートの住人なら、調査を進めるうちにまた会えるかもしれない。
……そのときは名前くらい聞いとこっと。
下心丸出しの決意を胸に、わたしはロケハンを再開するのであった。

建物の周囲を調べ終えたわたしは、いよいよ中に入ることにした。
最初の扉を開け、中に入ったわたしの目の前に現れたのはズラリと並んだ集合ポスト。
その集合ポストには特に変わった所はなく、普通のポストのように名前が書かれていた。
新聞や雑誌が投函されているところを見ると、やはり人は住んでいるようだ。
しかし、その名前というのがどれも奇妙なモノで、本当に実在する人物なのか疑わしくなってしまった。
「あっ……」
ポストを観察していたわたしは、ふと妙なポストを発見した。
一つだけ名前が書かれていないのである。
真っ白な紙がむき出し。
でも、それでいてなぜか雑誌なんかやらは投函されているので不思議なものだ。
一応、ポスト所有者はここに住んでるらしい。
その時、不意に背後から声をかけられたため、思わずわたしは飛び上がってしまった。
「……おじさん、何してんの」
あわてて、振り返ると狐のお面をした着物姿の少年がジーっとわたしを見上げていた。
真っ白な着物らしきモノを着ていてなぜか頭には木の葉の髪飾りをつけている。
……ヘンなやつ。
でも、ネタにはなりそうだ。話を聞いてみよう。
「ご、ごめん。ちょっとこのアパートが気になってね」
少年は相変わらずお面の奥からジーッとわたしを見つめている。
……人と話してるんだからお面くらい取れよ。
「君は、ここに住んでるの?」
「見りゃわかるでしょ」
少年がボソっとした声で答えた。
あまりにも短い返答。
やっぱり変なヤツだ。
会話が続かなくて、沈黙するのが怖かったので、とりあえず名前を訊いてみることにした。
「きみ、名前はなんていうの?」
少年は相変わらずのボソっとした声で答える。
「人に名前を訊く時はまず自分から名乗るモノだよ。おじさんそれでも社会人なの」
このクソガキ……。
しかし大人なわたしはそんな感情を顔には出さない。
もしかしたらこの少年はわたしを知っているかもしれないのだ。
その憧れの人物像をわたしの気持ち一つで壊すワケにはいかない……。
わたしはエヘンと一つ咳払いをすると自己紹介を始めた。
「たしかにそうだね。君の言うとおりだ。名乗るよ。わたしの名前は高村健人……小説家をしているんだれど、もしかしたらわたしの名前を本屋で見かけたことがあるかもしれないね」
少年はしばらくジーッとわたしを見上げている。
そしてしばしの沈黙の後にあの無愛想な声で言った。
「知らない」
うん、そうか。知らないか。
ウフフッ、シ・ラ・ナ・イ。たった四文字で済まされちゃったよ!
「本とか読まないし。少なくとも僕はね」
少年は後から弁解するように続けた。
一応、優しさはあるんだ。
ちょっとだけ、感心した。
まあ、次は君の番だよ謎の少年♪
なぜかテンションが上がるわたし。怖いモノ見たさにワクワクしてるのです。
「じゃあ、とにかくわたしは名乗ったよ。次は君の名前を教えておくれ」
少年はコクリとうなづくと小さく深呼吸した。
「分かった。名乗るよ。ぼくの名前は……」
言いながら少年は顔に着けているお面に手を伸ばす。
やっぱ、あいさつの時には外すんだ。
やっとだけどね!
しかし、少年の顔を見た瞬間わたしは思わぬ人物と再会することになる。
お面の下から現れたその顔は……なぜか尋常じゃないくらいに青白かった!
少年が名乗っているけど、わたしはそれを叫び声でかき消してしまった。
「俊雄くん……!こんなところで何をしているんだ……!」
そう、思わぬ人物とは、ホラー映画『呪怨』に登場する佐伯俊雄くんである。
いやー、こんなところで会うとは思わなかった!
「俊雄って誰だよ」
不機嫌そうに少年が言う。
まあ、もっともな感想だろう。
わたしが彼の自己紹介を邪魔してしまったんだから。
……それに映画の登場人物がコッチの世界にいるわけないし。
いや、理屈では分かっていたけどそれほど青白いんだもん!この子の顔!
途端にこの少年に興味が湧いてきた。
ごめんね、少年。君は迷惑かもしれないけど、君はぼくのライター魂に火をつけてしまったんだよ!
……これが、ぼくの取材対象がめぞん跡地からこの謎の少年へと変わった瞬間だった。