おぶりがぁど!~ブラジル滞在日記
さあ、いよいよ帰国のときがやってきました!
通訳の人たち、フロントのオネーちゃんたち、厨房のおばさんたちに別れを告げました。
「おぶりがぁど!!」
ポルトガル語で「ありがとう」の意味です。
厨房のおばさんたちには、本当にお世話になりました。
日本から、電子ジャーを送ってもらい、毎朝ご飯を炊いてもらったのです。
(もちろん、炊き方は教えましたけど。)
また、一度、日本の食材を扱うお店に言って、味噌とうどんを仕入れ、厨房を借りて
豚汁と焼きうどんを作らせて貰いました。
おばさんたちは興味深そうに、私達が料理する様子を窺っていました。
出来た料理のおすそ分けをおばさん達にあげて、食堂で食事をしてから、厨房に食器を
戻しに行ったとき、おばさん達が、豚汁に焼きうどんを入れて食べていたのを見て、
(しまった、食べ方を教えてなかった。)
と、後悔しましたが、それでもおばさんたちは、ニコニコ笑って、
「ムイント ベイン (とってもおいしいよ)」
と言ってくれたのでした。
そんな、やさしいおばさん達。
「おぶりがぁど!!」
ホテルから車に乗り込み、3時間半、ベロホリゾンチの空港へ向かいました。
一緒に来た小林くんは、ビザを持っていなかったので、滞在1ヶ月で既に帰国していましたので、
私一人での帰国ということになりました。
車は来たときと同じ道を、来たときと同じ猛スピードで走っていきました。
あとはもう帰るだけですから、来た時ほど怖さを感じませんでした。
空港に到着し、運転手さんにも別れを告げ、早速入国手続きを行いました。
そんでもって・・・
捕まりました!!
そうそう、ブラジルでは、滞在1ヶ月を越える場合、外国人登録しなければならないのです。
忙しさに感け、それをすっかり忘れていたのでした。
ブラジル警察の移民課らしきところに連れて行かれました。
そこでまず、両手にべっとりと黒いインクを塗られ、指紋を採取されました。
それはもう、罪人のような扱いです。(って、罪人か。)
その後、窓口の担当者に何やら言われるのですが、何を言っているのかさっぱり分かりません。
途方にくれて、ふと待合のベンチに2人並ぶ親子とおぼしき人影を目にしました。
見ると、お母さんの横で、「こくご」とかかれた本を呼んでいる女の子がいるではありませんか。
(これは、日本語通じる。)
直感した私は話掛けました。
私 「あのぅ。すいません。日本の方ですか?」
お母さん 「はい、そうですが。」
私 「ああ、良かった、窓口で何やら言われているんですけど、何を言っているのか分からないのです。」
親切にもそのお母さんは、私の代わりにその窓口の担当者とお話をしてくださいました。
お母さん 「まず、写真を2枚撮って、不法滞在分の住民税を払ってくださいと言ってます。」
私 「分かりました、まず写真を撮って来ればいいんですね? すみませんが、この紙に、写真屋まで言ってくださいというポルトガル語を書いてもらえますか?」
お母さんにその紙を貰い、タクシーを拾って、近くの写真屋まで行き写真を撮ってきました。
そして、窓口にお金と一緒に出しましたが、また何やら意味不明なことを言われ、お金を受け取ってくれません。
金額は窓口からもらった用紙に書いてあるので、少ないはずないし・・・・
また、途方にくれてしまいました。
すると、さっきの親子が向こうから歩いてくるのが見えました。
急いで走って行き、またまたお願いしてしまいました。
お母さん 「ここでは、現金で受け取れないので、指定の銀行へ行き、振り込んで、振込み証明書を貰ってきてくださいと言ってます。」
私 「そうですか、ありがとうございました。」
お母さん 「あなた、どこから来たの?」
私 「北海道から仕事で来ました。」
お母さん 「そう、私の父が函館出身なのよ。もう日本には何十年も帰っていないけど、なつかしいわぁ。頑張ってください。」
そう励まされ、再びタクシーに乗って銀行へと向かいました。
何とか銀行で支払いを済ませ、証明書を貰って警察署へ戻り、書類を窓口に提出し受理されました。
ほっと一息して、あの親子がどこにいるか探してみましたが、もう既に帰られた様で、みつかりませんでした。
あの時は本当に助かりました。
「おぶりがぁど!!」
外国人登録証明書を仮発行してもらい、一週間後に取りに来るように言われましたが、来れるわけがありません。
これから帰るんですから。
そんなことを、今ここで言ったら、またもめると思い、笑ってごまかしました。
いまでも、この仮発行証を持っています。
この書類の内容を読んでみると、面白いのは、私のほかに、私の父母の名前も書かれています。
日本文にすると大体こんな文面になります。
父親、○○○男、母親、○○○子の子供である、○○○○は、
この度うんにゃらかんにゃら・・・・・
まさか、遠いブラジルの地で自分の名前が語られているとは、私の両親も思ってもいなかった事でしょう。
それにしても、家系を重んじるお国柄なんですね。
私のパスポートにはブラジル警察のスタンプと、
「この人は、不法滞在をやらかして、罰金刑をくらってますぜ。」
とたぶん説明しているであろう文言が記されてしまいました。
それからというもの、このパスポートが更新になるまで、海外に行く度に入国審査で審査官にあれこれ聞かれるハメになりました。
やっとの思いで空港へ戻った私は、愕然としてしまいました。
「乗るはずの飛行機が、行っちゃってる!」
航空会社のカウンターへ行き、事情を説明して日本行きの便を探してもらいました。
(もう、日本ならどこでもいいから帰して!!)
そんな気持ちで、カウンターのおねえさんが、端末をカチャカチャやるのを見ていました。
「ミスター、幸運な事に、3時間後の東京行きの便に空席が御座います。」
優しく微笑むそのおねえさんが、女神に見えました。
「おぶりがぁど!!」
こうしてやっと帰路に着き、私の長かったブラジル滞在は終わりました。
この滞在の中で、何があっても驚かない、諦めないというクソ度胸が
身についたと思います。
また、この滞在はこれから後、1年の半分は日本にいないという私の生活の始まりとなる最初の出張であり、家族への思いを再確認させてもらった貴重なものとなりました。
最後に、今回この滞在日記をごらん頂いた皆様、この滞在で関わった全ての皆様に。
「おぶりがぁど!!」
おわり。
作品名:おぶりがぁど!~ブラジル滞在日記 作家名:ohmysky