YUMEGIWA LAST BOY
「0.5秒先の未来が見えるの」
彼女は笑顔でそういった。
僕が向けた疑いの眼差しをまるっきり無視して、彼女は矢をつがえる。
「嘘だと思うでしょ?未来なんて見られるわけないって。でもね、ほんとなんだよ」
彼女は的に向かって半身になり、的に目を向ける。
「私には、この矢の未来が見える」
弓を持ちあげ肩の高さで止める。セットアップ。
そのまま流れるような動作で弦を引き寄せる。引き分け。
そして、彼女はあごの下まで弦を引く。フルドロー。
一本の張りつめられた糸が、限界まで引き延ばされるような緊張。
数秒間。弦が引き延ばされるかすかな音だけが、空間を支配する。
シュッ!
彼女の手から弦が離れ、矢が30メートル先の的に飛んでいく。
ダンッ!
そして、まるで吸い寄せられたかのようにその矢は的の中心、Xを打ち抜いた。
彼女は数秒間。弓を射った状態のままでキープする。フォロースルー
「アーチェリーはね。0.5秒先の未来が見えるスポーツなの」
残身をとったまま、的から目を動かさず、彼女は言う。
「普通は弓を引いて、離したところだけが重要だと思うでしょ? でも違うの」
「的の前に立って、矢が的に当たったそのあとの残身まで。その一連の動作全部が矢の軌道を決める。それらが全部一定にこなせれば、フルドローしたときに矢がどこに飛んでいくかが感覚的にわかる。つまり、矢の未来が見えるのよ」
「えらく限定された未来だな」
そういうと、彼女は全くだと笑った。ただ、そのあとにこう付け足した。
「私はね。アーチェリーは相当ひねくれたスポーツだと思うの」
「それは僕も同感」
「的に向かって、ひたすらまったく同じ動作で弓を引き続ける。実生活ではまったく役に立たない、ひねくれたスポーツ。でもね、やめようとは思わない。やめられない。私は、この0.5秒ほどしかない一瞬の、でも未来も過去もつながったような、無限のように感じる時間が好き。アーチェリーってそういうスポーツなんだと私は思う」
「なるほどね。選ばれし者の言葉って奴か」
「君は筋がいいからさ、いつか見れるようになるよ。矢の“未来”が」
そういって彼女は笑った。
彼女は笑顔でそういった。
僕が向けた疑いの眼差しをまるっきり無視して、彼女は矢をつがえる。
「嘘だと思うでしょ?未来なんて見られるわけないって。でもね、ほんとなんだよ」
彼女は的に向かって半身になり、的に目を向ける。
「私には、この矢の未来が見える」
弓を持ちあげ肩の高さで止める。セットアップ。
そのまま流れるような動作で弦を引き寄せる。引き分け。
そして、彼女はあごの下まで弦を引く。フルドロー。
一本の張りつめられた糸が、限界まで引き延ばされるような緊張。
数秒間。弦が引き延ばされるかすかな音だけが、空間を支配する。
シュッ!
彼女の手から弦が離れ、矢が30メートル先の的に飛んでいく。
ダンッ!
そして、まるで吸い寄せられたかのようにその矢は的の中心、Xを打ち抜いた。
彼女は数秒間。弓を射った状態のままでキープする。フォロースルー
「アーチェリーはね。0.5秒先の未来が見えるスポーツなの」
残身をとったまま、的から目を動かさず、彼女は言う。
「普通は弓を引いて、離したところだけが重要だと思うでしょ? でも違うの」
「的の前に立って、矢が的に当たったそのあとの残身まで。その一連の動作全部が矢の軌道を決める。それらが全部一定にこなせれば、フルドローしたときに矢がどこに飛んでいくかが感覚的にわかる。つまり、矢の未来が見えるのよ」
「えらく限定された未来だな」
そういうと、彼女は全くだと笑った。ただ、そのあとにこう付け足した。
「私はね。アーチェリーは相当ひねくれたスポーツだと思うの」
「それは僕も同感」
「的に向かって、ひたすらまったく同じ動作で弓を引き続ける。実生活ではまったく役に立たない、ひねくれたスポーツ。でもね、やめようとは思わない。やめられない。私は、この0.5秒ほどしかない一瞬の、でも未来も過去もつながったような、無限のように感じる時間が好き。アーチェリーってそういうスポーツなんだと私は思う」
「なるほどね。選ばれし者の言葉って奴か」
「君は筋がいいからさ、いつか見れるようになるよ。矢の“未来”が」
そういって彼女は笑った。
作品名:YUMEGIWA LAST BOY 作家名:伊織千景