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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
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ファンタジー短編作例

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 「やっと会えたね」
 そう言って剣士は黒の鎧をさすりながら、おもむろに剣をしまう。

 「あなたに何ができるの」
 白いコートに包まれた、まさにその女性こそ、王が剣士に殺すよう依頼した人間だった。
 「あなたは救世主にはなれないし、なってはいけないでしょう」

 #

 信じたくなかった。
 その名前を、倒すべき相手として、聞きたくなんてなかった。
 だけど王様は、剣士に告げた。
 「おお、勇ましい黒の剣士よ」
 至極当然に、そしておそらく走らないのだろう、かつての付き合いを。
 「白い衣を着た魔女を殺してほしい」

 現に自分の勇者としての仲間も次々に殺されていた。本来恨むべき人間であるはずの相手の、その名前を。
 「たしか、ミコと言ったかな、名乗る名は」
 聞きたくなかった。

 だけど、仮にもそのために王宮に仕え、学識と剣術をつけた剣士に、逆らうという選択肢はなかった。
 「恐れながら、承らせて頂きます」

 #

 王都を離れるとき、盛大なパレードがあった。皆、勇者の笑顔に声援を送る。ただひとり、アイスを食べていた少年だけがその表情の暗さを感じた。でも、単に「おこっているのかな」ぐらいにしかその幼い頭では判断することが出来なかった。

 #

 旅は何日と続き、絶え間なく化物はやってくる。それでも、普段の旅でも出会わなかったような大きい物が。それだけの精神力の源の理由は一つくらいしか思いつかなかった。

 来て欲しくないのだろう。

 そしておそらく、会ってしまったら最後、殺せなくなっていたのだろう。

 #

 幾度と無くパーティは変わった。と言っても別に酒場に仲間を預けたりしているわけではない。
 殺されていくメンバーを次々村の猛者で補いながら進軍しているのだった。

 でも結局亡くなっていった。

 #

 冬の街に、灯火をつけて。
 酒場の主人は勇者の暗さを見た。
 「どうしたんだい剣士さんや。仲間が死んでいくのがやっぱり辛えか?」

 「辛いのは、その素晴らしい仲間を殺した人を、知っていることですよ」

 #

 ついに一人になった。
 どっちのほうがいいのだろう?
 仲間がいれば殺す建前をつきつけられる。
 逆に言えば、仲間の一人さえいないならば、相手を殺せない。それが自覚できた。あいかわらず強大なモンスターが来る。

 #

 「来ないで…」
 へとへとになった体を、なんとか押して大きなモンスターを作る。
 それは彼を殺したかったから。

 勇者だから、というわけではなかった。
 照りつける夏の日差しと対極に、その体は日焼けの一つしていない白い冬の肌だけが衣の隙間から見える。

 「来ないで…」
 また、つぶやいた。

 #

 「行きたくない…」

 そして、できるならばむしろ王都の、また通った村の住民をメッタ切りにしたかった。でもその優しさに、彼はあまりに触れ過ぎていた。
 人里を離れすぎた山で、なおも大きな獣を斬った。こんな山にも人は住んでいる。悪いたぐいというか、この世の快楽しか求めない奴らが。それが彼には嬉しかった。

 これなら、皆殺しにできる。
 人里離れ具合も、ちょうどいい。

 盗賊も、人さらいも、ついでにさらわれたであろう私娼も、全て斬り殺した。悪人に遊ばれて外界の楽しみを知らなかった少女たちが、斬られた。つながれたまま。

 もはや、ストレスが鬱を引き起こしていた。

 「行きたくない…」

 #

 「やっと会えたね」

 その声は喜びには満ちていなかった。しかし怒りにも震えていなかった。

 「あなたに何ができるの」
 何も望んでいなかった。

 「あなたは救世主にはなれないし、なってはいけないでしょう」
 なってほしかった。

 「人を救えると思ってきたわけでなし、正直来れるとも思っていなかった。そして僕が勇者に向いていないことも君には見えていないわけでなし」
 「まったく…あの娘たちを斬るとき、ギラギラしていて、どっちが悪なのかわからなかった」
 「だから僕はダメなんだ」

 「恨めないし、殺せない。目の前に自分の仲間を殺した奴がいて、しかも弱り果てまたとない機会なんだろうに」

 もう何も、思いつかなかった。この他は。

 「もっと離れた世界に行こう」

 #

 酒場で客と主人は語る。
 「なんか面白い話でも持っていねえのか」
 「どんなんだ」
 「悲しみにひたれるような、だ」
 「わけわからねえな。どうしたんだ」
 「たまにはそんな時もあんだろうがよ」
 「…そうだな、最近聞いた話だが…」

 #

 「昔ある村に、男と女のガキがいてよ、喧嘩したりとか遊んだりとかしょうもねえことして、まだガキだから、いろいろなこと知らねえで、でもんでふざけて結婚の約束なんかしたりしてた」
 「よくある話だな」
 「で、ある日男の方のガキが王宮に連れてかれた」
 「紋章が適合した?」
 「そんなところだな。で、一人残された女のガキは遊ぶ相手がいなかった」
 「友達のガキが他にいなかったのかよ」
 「村では下位のカーストだったようだな」
 「ああ、それでねえ。で、一人ぼっち」
 「そうだ。で、子供だろ?つらくて砂に円を書いた」
 「円?」
 「落書きのつもりだったんだろう。で、おもむろに家に一冊だけあった本の中に書かれたマークを書いちまったらしい」
 「らしい?」
 「そこだけは後で聞いたんだとよ」
 「へえ」
 「それで、そこにまあ化物が生まれちまった」
 「悪魔の召喚術かい」
 「まさしくな」
 「じゃあ」
 「村から追い出された」
 「やはりか」
 「で、ますます一人ぼっちになったガキは、書いて書きまくった」
 「化物でも何でもいいから友達を、ってことか」
 「そうだ」

 「それが、あの女らしい」
 「え?あの白い魔女のことを言っているのか」
 「そうだとよ」
 「まさかその話をしたのは」
 「…この間よ、黒い剣士が来ていろいろ身の上話してたのよ」
 「…嫌われて嫌われて、こうなってしまったのか」
 「もう戻れない、とか言ってたりしたな」

 #

 「私が知られていない場所?」
 「そうさ」
 「そんな場所なんて」
 「国の外さ」
 「何を言って」
 「君によく似た娼婦がいてね」
 ごそっとバッグから剣士は取り出す。
 「剥ぎとっちゃったの?」
 「そしてそれから斬った。血がつかないように」
 「ますます勇者じゃないのね」
 「だから向いてないのさ。紋章の儀で、性格までは測れない」
 「…あなたの服も」
 「ないわけがない」
 「…はぁ。わかった」

 その衣を脱いだ。悲しいほど白いうなじを見て、ますます苦しくなった。

 「この城ともおわかれね」
 着替えて彼女は言う。
 「行こう」
 「…ええ」

 #

 酒場に人が賑わい始めた。ある日から、化物が来なくなった。年は流れ、主人は引退して息子に酒場を継がせようかと考えていた。不意にたつて化物が来た方角を見た。

 #

 「王、報告致します」
 「なんだ」
 「あの魔女がいるとされる城は蛻の殻となっておりました」
 「なに」