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ぽんぽんゆっくりん
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novelistID. 35009
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とんぼがすむ島に

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「まさか、今いるってんじゃないでしょうね」

幣原が声を上げた。

「あの島を購入したのはどっかの大富豪と聞いとる。ただ、不思議なことにそのあとと言うもののあの遠吠えがピタッと止まったんじゃよ」
「とっ止まった?」
「うむ、どういうわけかな。不思議な話じゃろ? あの島が大富豪の持ちモンになって以来、ワシら漁師の中でも遠吠えを聞いたというモンはおらんのじゃよ」
「駆除でもしたんじゃないの」

若槻が呑気に言う。

「それだけだろ? じゃあ今は平和でのどかな島というわけだ。まったく」

大山が面倒くさそうに言う。
たぶん今の船長の話しなど信じてないだろう。
顔がそう言う表情をしている。

「きっと狼に似た生き物がいて、今の島の主が駆除でもしたんでしょう。表沙汰にもなっていないあたり、大した動物でもないんだろうな。アライグマか何かかもね」

アライグマって鳴くのか?

「じゃがなあ」
「まだ何かあるのか」

大山が声を強張らした。

「遠吠えだけじゃないんじゃよ」
「というと?」
「トンボじゃよ。それも恐ろしくでかい……な」
「トンボ? あの昆虫のですか?」

俺がそう聞くと船長はすぐに頷いた。

「うむ、ワシらの間ではその巨大なトンボに出会ったモンは幸福になるといわれておる。トンボは勝ち虫とも言うしな。ただ、それがあまりにも巨大でワシらの中にも気味悪がるモンは仰山おった」
「実際にそのトンボ見たんですか?」
「ああ、そりゃもう本当にでかかった。人一人ぐらいの大きさはあったかのう」
「何かの見間違いじゃないんですか? 例えば、飛行機とか」

幣原がそう言うと、今度は船長が声を強張らせた。

「いいや、そんなことは有り得ん。あれは間違いなくトンボじゃ。ワシと一緒に乗っとった、漁夫も若い水夫も、み~んなみたんじゃ」
「ははは、そりゃ楽しみだ。そのトンボ捕まえりゃひと商売なるかもな」

幣原が冗談交じりに言うと、船長が顔色を変えて叫んだ。

「それだけは止めろ!! あのトンボは見ると幸福になるが、捕まえたり、触れたりすれば恐ろしいことが起こるぞ!!」

その言葉に俺と若槻は驚いてビクッとした。

「なっなにいってんスか、大声で仰々しい」

船長は顔色を変えて、その場の全員に奇妙な話を始めた。
何かにとりつかれたみたいだ。

「その昔、あのトンボを採ろうとあの島に行った元治郎という輩がおってな。だがその男はそれを捕まえてくることはできんかった。だがその代わり、網にトンボの巨大な翅を採ってくることに成功した。それは人の腕ほどもある巨大な翅じゃった。元冶郎はその翅を自分の母屋の居間に飾りおった。しかそれからじゃよ」

全員が意味を飲んだ。

「元冶郎の長女が2階の寝室から誤って落ちて死におった。落ちた長女の貌は地面に思いっきりぶつけておって、ぐしゃぐしゃで服で判別するしかなかった」

若槻が俺の横で少し震えているのが分かった。

「続いて、次男がどういうわけかかまどに首を突っ込み煙で中毒死しおった。自殺かとも言われたが、遊びほうけていた次男が自殺なんてのは考えられんかった」

長女は顔面が潰れ、次男は気味の悪い自殺。
喉に今朝食べたスティックパンらしきものが戻ってきたのがわかった。

「その後すぐに次女も首を掻っ切って死んだ。死んでおった部屋にあるガラスが割れておって、そのガラスでな。自殺かどうかはわからんかった。ただ、骨が見えるくらい切れておったそうじゃ。そしてとうとう妻の野枝も原因不明の病にかかりおった。3日3晩苦しみぬいたあげく、全身がぶくぶくに爛れて死におったそうじゃ。そしてな……」

船長が少し間をあけて言った。

「居間の壁にかけとったはずのトンボの翅が落ちとったんじゃよ。4人が死ぬたびにな」

若槻が不意に俺の腕にしがみついた。
彼女のそんなに大きくない2つのボールが俺の腕におしつけられているのがわかる。
や、やわらかい。
今はなしていることに似つかわないことを考えた。

「トンボの呪い……か。で、その元冶郎はどうなったんですか?」

そんな俺を幣原が無視し言うと、船長がそのままの口調で話を続けた。

「野枝が死んだ夜にな、夢に出たんじゃと。けったいなヒトが。そして夢の中で元冶郎にこういったそうじゃ。『もどしてくれ。翅をもどしてくれ。もどしてくれ、後生だ』とな。元冶郎はすぐ狼島に行き、翅を採った場所に置いた。すると、巨大なトンボが頭上からやってきおった。そのトンボはよく見ると、片方の翅がなく、元冶郎が置いた翅をつけおった。翅が勝手に動いたんじゃと。それから、元冶郎は無事に帰還し、普通の生活を送ったそうじゃ」

船の上はしんっと静まり返っていた。
波の音だけがザアザアと聞こえる。
若槻が相変わらず、僕の腕を抱きしめていた。

「何が幸福を呼ぶトンボだ、不幸そのものじゃないか」

大山が笑いながら言った。

「見ただけだったら幸福になれるというのは言い伝えじゃ。本当は不幸のトンボかもしれんのう」
「何が言い伝えだ。それどころか全部言い伝えだろ」
「んや、今の話は80年前に実際にあった話じゃよ。ワシのじい様と元冶郎は知り合いでの、よう話を聞いたもんだ。元冶郎本人にも聞いたよ」
「ばかばかしい」

大山が小ばかにして言った。