ショッキング・ピンク
由香利はそう言うと、私が穿いているオーバーニーソックスを、丁寧に左足の分だけ脱がしにかかってきた。するすると脱がされる靴下。肌を掠めていく指の感触がくすぐったくて、思わず笑い声が出た。
「くすぐったいんだけど、」
「いいから、いいから」
由香利の近くには、ネイルケアセットが置かれている。やすりで形を整えて、表面も綺麗にならしていく。ベースコートを塗り、完全に乾いた後、私の好きな色――ショッキングピンクのマニキュアで、慎重に色を乗せていく。
上からだと、由香利の表情はまるで解らない。私の足元に跪き、丁寧に爪を彩る由香利。暫くぼーっとしていたが、気付けば由香利が私の顔を覗き込んでいた。
「出来たよ」
「へ?」
左足、薬指にショッキングピンクが眩しい。
「で、なにこれ」
「ほら、あれ、私たち、付き合いだしてもう3年じゃない」
「そうだね」
「この間、言ってたじゃない」
「なにか言ったっけ?」
「もう、ばか。……結婚かあ、いいなあって、ドラマ見ながら、」
「……ああ、言ったねえ」
「だから、これ」
また、私の足元に跪く由香利。
「なに?」
「まだまだ安月給で、指輪は買えないけど、その代わりに、うん……色がはげてきたら、また、綺麗に塗るから」
結婚指輪が買えるまで、それまでこれで。
うつむいた由香利の表情は解らない。ただ、耳が真っ赤になっていた。私はふっと笑みをこぼし、こう言うのだった。
「由香利は、何色がいいの?」
作品名:ショッキング・ピンク 作家名:もりもと