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てっしゅう
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「夢の続き」 最終章 岡山の暮らし

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最終回 岡山の暮らし


「由美、洋子はとてもいい子だなあ・・・今の様子見て嬉しかったよ」
「そうね、あの子恭子の気持ちを悟っていたのね・・・女って・・・哀しいわ」
「おいおい、お前この頃意味ありげな言い方よくするなあ。気になっちゃうよ」
「あれ?ひょっとして嫉妬しているの?」
「気になるだけだよ」
「嬉しいわ、あなたが妬いてくれているなんて!私も困らせないようにしないとあなたに嫌われちゃうわね」
「由美・・・」

東京駅に新幹線は着いた。どうなることかと気を揉んだ車内での恭子の態度だったが、ホームに降りた三人はまた
仲良く手を繋いで歩いていたから、修司も由美も自然に自分たちも手を繋いでいた。
「あれ?お母さんたち、仲いいのね」
恭子が冷やかした。
「みんな仲が良くなってお母さん嬉しいわ・・・」
「まだ新婚だもんね」
「おい、言いすぎだぞ恭子」
「お父さんみたいな人探すよ。お母さん幸せそうだもの」
「言うな・・・さっき泣いていたのに」
「お兄ちゃんは大好きだよ。カッコいいし、頭もいいし。でも、お父さんも大好き・・・」
「みんなで岡山へ行こう。お父さん決めたよ」
「えっ?ほんと・・・恭子も行けるのね」
「ああ、みんなで行こう。いいだろう?由美」
「はい、そうしましょう」


平成5年四月、
恭子は成長して貴史の後輩になる岡山大学へ入学した。洋子は二人目の子供を妊娠していた。
由美は一人目の孫に追われる日々を過ごしていた。子供好きと言うわけではなかったが、洋子の生んだ男の子は由美にとって
かけがえの無い存在となっていた。毎日走り回って転んで怪我して大騒ぎになっていたが、男の子の逞しさみたいなものを嬉しく
感じていた。どこと無く貴史に似てきた感じもする。修司は地元の企業に無事就職して忙しいサラリーマン生活を送っていた。
大学生活が始まってしばらくした日曜日に初めて恭子は恋人を家に連れてきた。相手は高校の同級生だった。卒業を前に告白されて
進学したら逢おうと約束して始まった交際だった。恭子は貴史に言われていたように彼を家に呼んだ。まずは俺に見せろと
言われていたからだ。家族に紹介出来る男と付き合え、その言いつけどおりにした。

彼の名前は正樹と言った。大学も同じ岡山大であった。貴史には後輩になる。学校でも何度か会っていたので見知ってはいたが、
由美や修司は始めて接するので少し緊張していた。それにもまして正樹は緊張していたであろう。洋子の子供が正樹を見て
泣き出したので、奥の部屋に頭を下げて引っ込んだ。

「正樹さん、ゴメンなさいね。孫は人見知りするようなの」由美がそう詫びた。
「いいえ、そんな構いません。他人ですから・・・そうですよね」
「私たちはお顔を拝見させて頂いただけで安心出来ましたので、後は恭子の部屋にでもどうぞ・・・」
「あっ・・・はい。ありがとうございます」

二人は二階へ上がっていった。

「あなた、素敵な青年よね?正樹さんって」
「そう見えるな。いつの間に見つけたんだろう・・・」
「気になるの?もう19歳よ今年。子供じゃありませんから」
「解ってるよ」
「これで貴史の事は忘れられるかしら」
「どうだろう・・・お前だったらどうだ?新しく恋人が出来たら好きな人忘れられるか?」
「えっ!急にどうしたの?そんな事言うなんて」
「ボクは由美に夢中だから前の妻のことは思い出したりしない。女は違うって聞くぞ・・・」
「誰のことを思っていると言うの?前の夫のこと?」
「そういうことを聞きたいんじゃないんだ。一般論だ、女としてどうなのかって言うこと」
「初めての男性のことは忘れない・・・とか言ったような事が聞きたいの?」
「そうなのか?」
「違うでしょ!あなた一般論て言ったじゃないの。私は・・・思い出した事は無い」
「よかった・・・」
「恭子は貴史への思いを忘れるようなことは無いと思うわ。正樹さんを好きなってゆくことで仕舞い込む事は出来るわね。
思い出はね良いことだけ、楽しかった事だけ、嬉しかった事だけ、残ってゆくの。辛いことや悲しいことは新しい付き合いで
消されてゆく・・・そうじゃない?」
「キミも消したのか?」
「私の事はもういいじゃない。過去が気になるの?孫も出来たと言うのに・・・変よ」
「僕の中では由美はどんどん好きになるんだ・・・今まで気にならなかったことが気になって来るんだよ」
「あなた・・・私が全部話したらすっきり気持ちが収まると言うなら、話しましょうか?」
「いや・・・いいんだ。すまん・・・嫉妬する相手も無いのにこんなこと言って」
「愛してくださっているのね・・・幸せですよ私は。あなただけしかいないのよ。あなただってそうでしょ?」
「もちろんだよ!もう言わないから。恭子の事はキミが頼むよ。相談に乗ってやってくれ」
「はい、でもきっと洋子や貴史のほうがいい相談相手だと思いますよ」
「そうだな」

夫の優しい言葉が由美には嬉しかった。一緒に暮らして4年の歳月は夫婦を熟成させていた。お互いに再婚同士ゆえに
解り合える部分と気になる部分を共有している。男の嫉妬は過去に向かうと聞く。修司もそうであったのだろう。

二階から降りてきた正樹は由美と修司に挨拶をして帰っていった。玄関先で手を振って見送っている恭子はやがて中に入ってきて
「ねえ?お父さん、正樹くんどう思った?」そう聞いてきた。
「どう・・・って、感じの良い男性だと思ったよ。好きなのか?」
「まだわかんない。優しい人だし、これからね。変なことしないから心配しないで、お父さん」
「ああ、そうだな・・・貴史はなんて言っているんだ?」
「お兄ちゃん?・・・賛成してくれているよ。ちょっと気が弱い奴だから、私がリードしないと進まないかも知れないぞって言われた」
「ほう、なるほど。よく見ているな。それでいいのか恭子は?」
「お姉ちゃんもそうだったみたいだから・・・いいって、お兄ちゃんが言った」
「喧嘩しないようにしろよ。貴史と洋子は特別だから喧嘩しても直ぐに仲直り出来るけど、男と女はみんなそうじゃないからな」
「うん、ありがとうお父さん。気をつけるね」
「恭子・・・」
「何?」
「おまえ綺麗になったなあ・・・」
「本当?」
「ああ、もうすっかりお嬢さんだぞ。どこに出しても恥ずかしくない。お父さん自慢の娘だ」
「お父さんの子供だからよ。お母さんにも感謝しないといけないね」
「生んだお母さんか?」
「何言ってるの・・・今のお母さんに決まっているじゃない!そんな事言っちゃいけないよ、傷つくから」
「お前も大人になったんだなあ・・・寂しいけど、嬉しいよ」
「お母さんと仲良くしてよ。言わなくても仲いいか?ハハハ・・・」
「笑うなよ・・・恥ずかしいじゃないか」

翌年大学を卒業した貴史は念願の中学社会の教師になった。卒論は大東亜戦争への反省をテーマに書いた。
新任の若い教師が熱く語ることで学校では話題になっていたが、平和への強いメッセージが子供たちに伝わるのか
評判の良い授業と言うことでPTAからも支持を受けていた。洋子は二人目を出産した。今度は女の子だった。