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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『暴かれた万葉』 18(完)

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『暴かれた万葉』  18(完)


大木老人の頭脳は、今や若い本多のそれよりも若返ってフル回転している。

「セットと言ったのは、この二つの警告が互いに関連しているからじゃ。

まず、最初のは「秘蹟である白山の御稜は頂上の窪を掘ったら菊、

即ち天皇の御稜である事実が消えてしまう、それゆえ、開いてはいけない。

言い換えれば、誰かに御陵を開けられたら弘文天皇の御稜との伝説が

覆ってしまう」と言っているのだろう。

二番目は、「だから、墓を開けて菊(器具=三種の神器)

を隠せ、そうすることで天皇の御稜であるように取り繕え」と言っていると思う。

学者だった麻倉祥雲は時代の変化を逸早く読み取って、御陵が調査研究

の対象となり、開墓される時代もやがては来るかも知れないと言う程度の

気持ちで「上総八景」に警告を書き込んだのであろう。

現に、明治時代に入ってから東京帝大の学者が、御稜を調査研究の為掘った時、

三種の神器が出土したと聞いているので、春豊神社の麻倉家はこの警告に

従って、神器を御稜に埋めたと思われる。

となれば、すでに明らかな様に、三種の神器を代々守って来た春豊神社の神官、

麻倉家は、大友皇子、即ち弘文天皇の末裔と言う事になる。


三種の神器といっても、世の中に一つしか無いと言う訳ではない。

必要なら、作れば良いだけの事。

いい例が、平家滅亡の折、幼い安徳天皇とともに海の藻屑と化している。

現在、皇居の賢所に大事に保管されている「ヤタノカガミ」にしろ、あれはいわゆる

レプリカで、本物は伊勢神宮に保管されている。


そこで、問題は、「馬霊鎮め」の神事が、何を意味するかだ。

既に判ったであろうが、大友皇子は近江の山前の時と同じように、この上総でも、

再び「替え玉作戦」を使ったのだ。恐らくは、馬来田国造の身内の一人を

犠牲にして、天武軍に首を差し出したのであろう。その霊を鎮める為に「馬霊鎮め」

の神事を行う様になったと見る。

先程の、御稜取り繕いの話しも、この「替え玉作戦」を世に知られたくなかった

麻倉家代々の秘密を守る為だったのである。


さらに言えば、麻倉幸三は、馬来田国造の末裔の可能性が高い。

そう思うと、今回の殺人事件は、随分と皮肉なものだと言わざるをえない。


数年後、白山大古墳の頂上の窪みに一体の白骨死体が発見された。

衣類から麻倉勉と鑑定された。


その後、本多隆次は由香里と交際している。

近く結婚の予定も立っている。

今日も、由香里のアルバムを見せて貰いながら、一枚の古い写真が

気になり、注視した。

「あなたを抱いて笑っているこの男の人は誰なの?」

「わたしが五、六歳の頃ね。誰でしょう」

「写真の下に一九九二年(壬申)って書いてあるね」

そう言いながら、本多は、麻倉幸三に面影が良く似ているなと、思った。


                完