どしゃぶり
「生協で買えばいいじゃん」
「ださい傘しか売ってないから嫌だし、そもそも雨が降ったというだけで、いちいち傘を買うのが嫌だ、耐えられない」
友人のもっともな助言も涼音はあっさりと流した。友人はめげない。
「じゃあ借りればいいんじゃないの? 忘れ物の傘ならたくさんあるし、センスのいいやつ選べば問題ないでしょ」
「返さなくちゃいけないのが嫌だ。ヒモ付きのものは受け取らない主義でさ、モノでも現金でも行為でも」
「そういうのって、なんか小物っぽくない?」
「あいにくと鷹揚でも寛容でも大物でもないんだよね。それに、ちょっとしたことでもすぐに貸しを作った気になる馬鹿がいるから油断も隙もあったもんじゃないって」涼音は何かに気づいて、友人の背後を指差した。「例えばああいうのとか」
友人が振り返ると、そこには傘を2本持った山男的なむさ苦しい男がいた。
「涼音ちゃん、こんなこともあろうかと傘は用意してきたから安心したまえ!」
「そんじゃ、邪魔しちゃ悪いから先に帰るね」
友人は意味ありげな目をして去っていった。涼音は極度に激しく不機嫌になった。山男はそれに気づかない。
「傘は視認性抜群のビニール傘だよ!」
「そう、ありがと」
涼音は気味悪いくらいの笑顔で、山男が差し出すビニール傘を受け取った。
「さあ、帰ろオウチッ!」
背中を向けた山男の尻に涼音の持ったビニール傘が突き刺さっていた。涼音は爽やかな笑顔とビニール傘と悶絶する山男を後に残して立ち去った。
「忘れ物傘借りてこ」