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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『暴かれた万葉』 16

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『暴かれた万葉』 16


本多の連絡を受けたK署の捜査本部は、即刻消防団の手も借り、

麻倉勉の行方を追って、近くの山林、岸壁、河川等を探索したが、

結局見付からなかった。

市外に出ている可能性もあるとして、麻倉家から借りた写真を元に

作った顔写真を近隣の警察にも配布し協力を求めた。

後は、結果待ちである。

一方、父親の遺言に従い、由香里は「上総八景」なるものの謎の

解明について本多の協力を求めて来た。

父親が解明出来なかったとあれば、自分達母子が所詮手に負える

代物ではない事を充分承知しているらしい。

同時に、由香里の様子から、自分を憎からず思って呉れている上での

依頼とも取れた。

自分だけの気のせいかも知れぬが。

本多は由香里から実物の「上総八景」なるものを見せて貰った。

八枚組みの墨による風景画で、それぞれに四乃至五の文字が書き込まれている。

馬来田落雁

畔戸帰帆

人見晴嵐

久留里暮雪

鏡峰秋月

木更津夜雨

鹿野晩鐘

吾妻夕照

文字だけを手帳に写し取りながら、大木老人の顔を思い浮かべた。

矢張り、あの物知り老人の手を借りねば。

「ところで、由香里さん、あの「馬霊鎮め」の神事の謂(いわ)れについて、お父さんから

何か聞いた事はありませんか、その意味合いとか?」

「お母さんは如何ですか?」

二人共首を横に振るだけだった。

そうか、何も聞かされていないか。


                  続