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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『暴かれた万葉』 15

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『暴かれた万葉』 15


本多は同僚に電話だと言われて、机上の受話器を取った。

「はい、本多ですが」

「もしもし、わたし、麻倉由香里です。いつもお世話になっております」

「ああ、麻倉さん、どうなさったのですか?」

そう言いながら、彼女は由香里と言う名だったのか、と思った。

「実は、父が失踪しまして」

「えっ、お父さんが?」

「本多さん、お会い出来ないでしょうか?」

「分かりました。すぐお宅へ参ります」

「有難う御座います。お待ちして居ります」


父親の失踪?

どう言う事なんだろう?

大切な神事を控えて失踪するとは?

本多は色々考えながら、車を飛ばした。


十分余りで春豊神社に着いた。

玄関の前に由香里が待っていた。

長い黒髪と白い肌にピンクのセーター姿は、一層魅力的なものだった。

しかし、その顔は散々泣き腫らした後であることが、すぐ判った。


「お待たせしました」

「どうぞ、お入り下さい」


応接間には、母親も待機していた。

本多を見て、深々と頭を下げた。

彼女も、初対面に見せた、あの訝しげな表情などは微塵もなく、

何か縋り付きたいものを求めている様な風情だった。


「こんなものが置いてあったのです」


由香里が一枚の便箋をテーブルの上に置いた。

取り上げて読む本多の顔色が変わった。


「幸子、由香里へ

お前達を残して逝くのは誠に辛いが、自分の犯した罪を

贖(あがな)わずに生き続ける事は、神官としての自分が許さない。

実は、麻倉幸三と市内の飲み屋で落ち合い、酔わせた上で

青酸入りのコーヒーを飲ませ、夜の万葉公園に誘った。

暫くすると彼は苦しみ出したので、彼を放置して自分は

急いで帰宅した。

翌朝、死体があの歌碑の前で発見されたらしいが、彼が何故

あの歌碑の前で息絶えたかは判らない。

元々麻倉には二系統あると聞いた記憶もあるが、詳しい事は

知らなかった。

あの祠焼失騒ぎの後、麻倉幸三と名乗る男が電話を掛けて来て、

要求を吞まねば家族にも危害を加えると脅迫して来た。

聞けば、自分も春豊神社の資産の半分を貰う資格があると言う。

この予想外な突然の要求に私は悩んだ。

余分な蓄えが有る訳もなく、さりとて神社を売るなど出来る筈もない。

話し合いは結論が出ず、苛立つ彼に、本当に何をするか分からない

恐怖を感じて、遂に、これは殺す以外ないと、結論付けた。

しかし、我が家族を守る為とは言え、人を殺める事は神官に有るまじき

行為である。

辛いだろうが、お前達には解って貰いたい。

神事が済んでからとも考えたが、警察も必死に捜査を進めている様なので

この辺で終わりとしたい。

後は、氏子の皆さんが知恵を貸して呉れるので、心配無用である。

伝承によれば、わが先祖の一人、幕末の麻倉祥雲の遺した

「上総八景」に何かが書き込まれていると言う。

私は色々調べてはみたが、結局何も判らずじまいだった。

お前達で解明するもよし、或いは誰かに頼むもよし、我が家の秘密を

調べて欲しい。

迷惑掛けて済まぬが、後を頼む

麻倉 勉


                 続