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未定

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 いつからか夜更かしが癖になっていた。たぶんネトゲのせいだ。
 夜更かしを続けると宿題を忘れるようになった。ネトゲが楽しくてほったらかした。その癖、提出する間際になると焦った。ちゃらちゃらした連中に紛れて宿題を写させてもらう立場になった。それでも間に合わなかったり、変なプライドで写すのをためらったりして宿題が仕上がらないことも多かった。そうして宿題を忘れて、怒られるのが辛かった。
 夜更かしを続けると睡眠が足りなくなってきた。授業中以外は机に突っ伏して頭を休めた。心配した友達が声をかけてくれたりもしたが、眠気のあまり適当にあしらった。距離は開いていった。
 家に帰ると睡魔はどこかに消えて、夜更かしは続いた。パソコンの前に座ると楽しいことで満ち溢れた。同時に明日が来る不安でいっぱいだった。忘れようとネトゲに没頭した。親に気づかれないようにした。
 夜更かしを続けると居眠りをするようになった。睡魔は休み時間を超えて目蓋の上にのしかかった。教師からは怒られ、生徒からは白い眼で見られた。居づらかった。

 夜を更かしている。ネトゲは楽しい。もう夜中の4時だ。寝たら覚める。覚めたら学校だ。嫌だ。不安だ。今日を終わらせたくない。明日に来てほしくない。
 宿題を忘れて怒られるのが怖かった。忘れる子はそれなりにいるけど、僕の頻度は頭抜けていた。
 居眠りを怒られるのが怖かった。特定の授業を狙って寝る子はいるけど、僕はほとんどの授業で朦朧としていた。
 授業は苦行だった。眠気が来ないように意味も解らず黒板に書かれた文字をひたすら写した。頭の中でこれは修行だと眠らぬように繰り返し自分を奮い立たせた。そんな気力は長くは持たず、ノートには黒いミミズが日増しに目につくようになった。

 義務教育じゃないから。自分の好きな道に進みたいから。勉強なんてしても仕方ない。数学なんて何の役に立つのさ。中学までで十分。仕事なら生きるためにするんだから真剣にやれる。理由を付けて自分を正当化した。信じ込んで省みるのを止めた。改善をする気はなかった。そんな発想は無かった。先の事は考えていなかった。

 目が覚めた。パソコン画面の前で突っ伏していた。ネトゲの世界が今も動いている。そんなことより不安が立ち込めた。7時30分。何かを焼く音がする。階下で母が料理を作っているようだ。今日が不安を伴ってどんどん押し寄せてくる。ネトゲを終了させパソコンの電源を消した。そんな気分ではない。それどころではない。学校に行かなくてはいけない。また怒られる。宿題をしていない。また怒られる。ほとんど寝ていない。また怒られる。周らない頭が漠然と不安を感じる。ふらふらと重たい体を起こして体温計を探した。見つけた。脇に当てて計る。熱がありますようにと祈り、強く脇を締める。36.5℃。水風呂に入っていれば良かった。裸で冷房をつけて過ごせばよかった。風邪をひいていればよかったのに……。もう一度体温計を挟む。脇を強く締め、横になり体重をかける。36.4℃。指で擦って無理やり体温を上げてみる。簡単に40℃までいく、けれど計測不能になった。擦るのを緩くして38℃くらいに下がったと思っても計測不能になった。脇に挟んで腕を動かして擦ってみた。36.7℃。おしい。何度か試すが、けれど、熱は出せそうになかった。あきらめて体温計をしまって布団にもぐった。頭からかぶって今日が実は休みだったという妄想をした。
 母に起こされた。意識が覚めてすぐ決心がついた。調子が悪いと訴えた。いかにも怠そうな声を作った。熱はあったの?と聞かれ、無かったと伝えた。ただ調子が悪いと訴えた。母はあっさり受け入れてくれた。
 母は部屋を出てすぐ電話機で学校に休む旨を伝えてくれた。外の人に向かって話す母の口調が新鮮だった。罪悪感と共に安堵が込み上げてきた。眠気が少し晴れて、それでも布団から出る気にはなれなかった。
 1日ぐっすり寝れば次の日から揚々と通学できると思った。そんなことは無かった。明日学校に行こうは、その日の夜には、もう学校に行けないに変わっていた。「たった1日で直るの?」「どうせ仮病だろう」「最近居眠り酷かったしね」いやな想像が頭をよぎった。翌朝「まだ調子悪い」と言った。2回目の仮病。母は気づいただろう。それでも少し話しをして休ませてくれた。3回目の仮病は覚えていない。気づいたら病欠ではなく不登校になっていた。
作品名:未定 作家名:tanaka_otu