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continuous phase

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innocence・トキヤ



歌い終わって、呼吸を一つ。
確認をする声を待つ。

「OKです、お疲れ様でした!」
「ありがとうございました」

夢のような時間の終わりを告げる呪文のような何時もの言葉を聞いて、その日は終わる。

「日向さん…」

ブースから出ると日向龍也さんがいた。
よぉ、と手を上げてニヤニヤ笑っている。
学園時代、思えばこの人は自分の歌を聴いていたとき眉間に皺を寄せたまま

「お前には心がない」

と何度も叱咤した。
自分でも分かっていたことを改めて他人の口から聴けば十分傷をえぐられる。
この人は「相手を壊す方法」を知っている人だと思った。

「随分、お前も素直になったもんだ」
「そうでしょうか?」

待合ブースのソファで並んで座りながら、出された珈琲を飲む。
学園、事務所での権力者、先輩。
一介のアイドル見習い。
同じ事務所とは言え、その二人が並んでいるのは少々滑稽な気がする。

「なったさ。あの曲をあんな風に”お前”で歌うとは思わなかったしな」
「どう言う事ですか?」
「そんな事、俺に聞くのか?俺じゃなくて、歌ったお前の方が答えを知っているだろ」
「…」

手の中にマグカップを収めて、揺れる中身を見つめる。
自分の中に答え?何の答えだ?と自問自答する。

一週間前、仕事帰りに社長から電話があり「歌って欲しい曲がある」と言われた。
部屋に帰ると机の上に楽譜・楽曲のオケの入ったCD、そして歌詞用紙があった。
作曲者の名前は書いてあったが、作詞を担当した人間の名前は書いていなかった。

歌詞を読み、楽譜を読み…途轍もなく居てもたってもいられなくなった。
慌ててオケを聞き、メロディーを追って行く。
心の中を音たちが暴走していく。
頭の中を言葉たちが踏み荒らしていく。

(君は…一体何を…一体何をしているんですか?)

曲を作った張本人の顔が、姿が、触れた体温が消えなかった。
まるで、これは自分の事を見透かしたような曲だ。

受け取ったその日は合わせるのに精一杯だった。
そこから、仕事の合間にレッスン室を借り、ボイトレの講師に付きっ切りで対応して貰った。

歌えば歌うほど、君の姿が私の中から消えない。
---この感情の行く先を君は分かっているのでしょうか。
---受け止めてくれるんでしょうか。
浮かんでは消えるはずの下らない想いが募り募っていく。

レコーディング当日。
君が居ない事を確認して、何故か私は安心していた。
何故だろう。
本当はもっと知って欲しい、と願っているのに。
この曲だけは、何故か「今は聴いて欲しくない」と考えてしまっていた。

多分、この曲には私の「格好悪い姿」が映し出されているからだろう。
一応私も男なので。
愛している存在の前では格好つけたいのですよ。

「兎に角、まぁお疲れさん」
「お疲れ様です」

日向さんはねぎらいの言葉を口にして、ソファから立ち上がった。
慌てて立ち上がり、頭を下げる。

「あの!」

何だ?と日向さんは振り返る。

「この曲は、今の所公表の予定なし、だ」

聞きたかった部分への答えを即答してきた。
何だか悔しい気持ちにもなる。
---読まれている。
だが、次に続いた言葉は、私が想像もしていない言葉だった。

「この曲は、お前の歌声を完成の一つとして、同期のアイドル見習い達にも歌って貰う事になってる」

社長命令だ、とにやり笑って待合ブースから颯爽と去っていった。

(どう…言う事…だ?)

私の頭の回路はぐちゃぐちゃになっていた。
公開はしないが、”それぞれが歌う”と言う。
立場が芸能界に身をおいている、と言う現状。
学園時代の全員に与えられた課題曲とは又違う。

しかも…、

「音也…貴方も歌うのですか…?」

胸の奥に錘が落ちる。
恐怖があるのだ。
自分にはないあの光を持った彼が、「彼女の作ったあの曲」を歌う。

ぐっと手を握って迷いを断ち切る。
私が完成形の、答えの一つだ。
ならば、見せてもらえば良い、聞かせて貰えば良い。
彼の、彼らの支えがあってここまで来れた。
その事実はどこかにおいていて。
一人の歌い手として、彼らの「実力」を。
それをはかる良い機会なのだ。

「こういうのを楽しめなくては、芸能界では生きていけませんよね」

ふっと笑って、気持ちを切り替える。
スタッフが私の名前を呼んだ。

「はい、今行きます」

一歩踏み出して、再びスタジオの中へ。

(さて、お手並み拝見と行きましょうか)

作品名:continuous phase 作家名:くぼくろ