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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『暴かれた万葉』 12

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『暴かれた万葉』 12

K署の捜査本部の会議に出席していた本多刑事は同僚の一人から

質問を受けた。

「本多君の報告で一寸気に掛かったのですが、その春豊神社の娘は

どうして害者の死んでいた歌碑が判ったのでしょうね? あの公園には

他にも幾つか歌碑が建っていますよね。勿論、報道ではそこまで詳しい

説明はしていない筈だし」

「そりゃ、誰かが喋って噂になったんじゃないかな。場所が場所だけに」

他の同僚が言った。

本多も言われて見て、一瞬「成る程」と思った。

早朝の死体発見で、それに我々の出動も迅速だったので、確か野次馬

などはいなかった。

噂を立てるとすれば、公園管理の市職員か警察内部の人間ぐらいである。

「分かりました。其の点は、再度本人にも会って確かめてみます」

そう答えながら、気持ちが昂ぶる自分に気付く。

(会える口実が出来て嬉しい為か? こんな事で捜査など出来ようか?)

内心、自問する本多刑事だった。


会議後、本多は大木老人宅へ車を走らせた。

広々とした田圃の中を一直線に走る広域農道の周囲の山並みの麓には、

その昔日本武尊が東征の折、歩いた足跡が処々方々に残されている。

今、小高い森の中に屋根を覗かせている春豊神社がその頃既に存在していた

のだから、凄いな、などと考えると、又あの娘の顔が浮かんで来る。


大木老人は、今回は座敷へ上がれと言って呉れた。

「先日は色々教えて戴きまして有難う御座いました。あの後早速図書館で

K郡誌を見ましたが、この土地には驚きの伝説があるのですね。あの万葉和歌

が大友皇子の作かも知れないとは、驚きました。大木さん、折角の大発見を

握って居られるのは如何なものでしょう。しかるべき学会にでも発表なさっては、

どうなんですか? まだ誰も気付いていないのでしょう」

「日本書紀を正史として崇めている限り、それに反するものは誰も耳を貸さんね」

「そうですか。ところで、春豊神社の馬霊鎮めの神事とはどんなものですか?」

「ああ、あれか。あれは、F神社の神事と共に、この土地じゃ有名な祭りじゃ」

「奇祭とか?」

「ううむ、そうも言われてるな。なんせ、妙な内容じゃからな」

「どんな神事ですか?」

「いわゆる神楽じゃが、旅人がこの土地に差し掛かった時怪物に襲われ

食われそうになるが、乗っていた馬が機転を利かせて自分が身代わりに

怪物に食われる。その馬の霊を慰める為の神事じゃ」

「成る程、馬の霊ね。例の和歌じゃないですが、この辺は馬来田と呼ばれて

いたらしいですね」

「馬来田は今でも地名に残っているが、其の昔この辺は馬来田国造の支配下

にあったのじゃ。春豊神社の神主は馬来田国造の子孫じゃ」

「えっ、春豊神社が?」

「そうじゃ。第十三代成務天皇の時代に地元の有力豪族を国造(地方官)に

任命したんじゃが、上総の国の六人のうちの一人じゃ。もっとも、大化の改新後は

制度も変わり、国府が置かれ国司が配されると、国造はその下の郡司に変わったが」

「そうですか」

本多は相槌を打ちながら、あの娘は高嶺の花で終わりかな、などと思っていた。

「ところで、学校の歴史でも教わったじゃろうが、大和朝廷が蘇我氏の勢力を

恐れて中大兄皇子(後の天智天皇)と中臣鎌足(死の直前に藤原姓を賜る)が、

645年蘇我入鹿を殺し天皇家の権威を確立した訳だが、あの鎌足は此の界隈の

出身なんじゃ。娘の耳面刀自が大友皇子の妃だったことが、此の地に逃れて来た

第一の理由じゃろ。鎌足は壬申の乱の三年前に死んではおるが、父親の故郷なれば

何かと地元の協力も得やすかったであろうしな」

「えっ、あの鎌足が此処の出身なんですか?」

「従来、大和と常陸の二説があるが、当地もそれに追加されるべきと思うんじゃ。

ここにも数多くの遺跡、口碑伝説が残されて居ってな」

本多刑事は、大木老人の話に驚かされるばかりだった。
                   
                       

          続