『暴かれた万葉』 10
本多刑事は目を擦りながら図書館を出た。
正史の日本書紀では壬申の乱で死んだことになっている大友皇子が
実は替え玉を使って自分は関東へ逃げていたと言うことか。
大友皇子の首は美濃国不破関の大海人皇子の行宮に運ばれた
と言うが、旧暦とは言え七月下旬では未だ充分腐敗する筈で、果たして
首実検の役に立ったか否か、疑問の生ずる処でもある。
従って、替え玉作戦も可能であったかも。
いずれにせよ、日本書紀は天武系の記録なれば、具合の悪いことは当然
隠すであろうから、此の逃亡説はあながち嘘話として一笑に付す
訳にも行くまいと思う。
とすれば、あの万葉和歌は此の地に逃げて来た大友皇子が都(近江)に残して来た、
正妃である天武の娘十市皇女を思って自ら詠んだものか?
夫婦仲が良くなかったと言う説もあるようだが。
もっとも、あの歌自体は大友亡き後に上総の民が詠んだものとしても通用するが。
それにしても、肝心の麻倉殺害とどう結ぶ付くのか?
相変わらず、本多は頭を抱えるのだった。
さて、今夜は春豊神社に行って見よう。
続
作品名:『暴かれた万葉』 10 作家名:南 総太郎