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世捨て作家
世捨て作家
novelistID. 34670
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HOPE 最終部

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Epilogue Day dream


 部屋の中に、目覚まし時計の音が鳴り響く。
「う、うぅん」
 寝起きの体を起こして、時計を見る。
 時間は既に、八時を回っていた。
「やばい! 遅刻だ!」
 慌てて、パジャマから制服に着替え、階段を駆け降りた。
 リビングには、朝刊を読みながらトーストを口に銜えている父さんがいる。
「ちょっと、あなた! お行儀が悪いわよ。食事中に新聞なんて」
 キッチンから、母さんの注意の声が聞こえる。
「ああ、悪い」
 父さんは慌てて新聞紙を丸めた。
 いつもと同じ朝。
 なんだか、とても安心する。
 慌てて身支度をしている私に、母さんは煽てる様に言う。
「沙耶子。あなたの彼氏が外で待ってるわよ」
「え?」
「早く行ってあげなさい。このままじゃ、二人で遅刻しちゃうわよ」
 私は鞄を手に取り、玄関を飛び出した。
「おはよう」
 隼人君は自転車に跨って、私を待っていてくれていた。
「ありがとう。待っててくれて」
「どうって事ない。早く乗れよ。飛ばして行くから」
「うん!」


 夏の透き通った風を感じながら、通学路を走る。
 とても涼しくて気持ちが良い。
「おーい!」
 隼人君が誰かに手を振っている。
 道の先には綾人君がいた。
「おはよー! 綾人君!」
 綾人君は、ちらりとこちらを向き、格好良く右手を上げて合図をした。
「相変わらずクールだな。あいつは……」
「それが綾人君の良い所だよ。格好良いじゃん」
 隼人君は苦笑する。
「そうかなぁ。なんか、あいつ無駄にモテモテだし」
「大丈夫だよ。隼人君はモテモテじゃなくても、私がいるから!」
「お前がいてくれると、本当に安心するよ」
 そんな事はない。
 むしろ、安心するのは私の方だ。
 本当に、隼人君がいるだけで毎日が幸せだ。


 門前では、数人の先生や生徒会役員が挨拶運動をしていた。
「やば。沙耶子、降りて」
「うん」
 私は慌てて、自転車から降りた。
 先生に二人乗りしている所なんて見られたら、たぶん隼人君の自転車通学を取り消されてしまう。
 朝、よく寝坊する私にとって、それはとても痛い。
「おはよう。宮久保さん! 今日も綺麗ですね! とても美しい! 本当に!」
 生徒会長の光圀先輩が、挨拶運動のどさくさに紛れて、そんな在り来たりな口説きをして来た。
「お、おはようございます」
 少々、苦笑気味な挨拶を返した。
「おい、光圀。沙耶子と話すんなら、まずは僕を通せって、いつも言ってるだろ」
「僕がどうしようと勝手さ。二人でバスケをした時、僕に何回シュートを決められたんだっけ?」
「うっ、それを言われるとなぁ……。じゃあ、今日もやるか?」
「良いだろう。とりあえず、お前には先輩と後輩の強さの違いを、分からせてやる必要がありそうだな」
 いつもと同じ口論が始まってしまった。
 まったく、二人とも学習しないんだから。
「いや、バスケなら私が一番だぞ!」
 ああ、そういえばもう一人、学習しない子がいた。
 口論する二人の間に、天道ちゃんが分け入って来る。
「おい、天道には関係ないだろ!」
「そうだ。天道さんは引っ込んでてくれ!」
「何を言う! バスケだろ? なら私も混ぜろ!」
 皆、騒ぎ過ぎだ。
「もう! 本当に遅刻しちゃうよ」


結局、遅刻ギリギリの登校になってしまった。
 眠くなる様な先生の話を延々と聞きながら、午前中の授業を終えた。
「よし!」
 授業が終わると、隼人君は突然立ち上がった。
「な、何?」
「何って、バスケだろ」
「ああ。そういえば、そんな事を言ってたね」
 隼人君は私の手を取る。
「よし! 行くぞ!」
「うん!」
 この手が、私をどこまでも引っ張って行ってくれる。
 隼人君となら、どんな困難も乗り越えて行く事が出来る。
 そんな気がした。
作品名:HOPE 最終部 作家名:世捨て作家